ナノ量子情報エレクトロニクスによるイノベーションに期待

 平成18年度から進められてきた文部科学省・先端融合領域イノベーション創出拠点の形成プログラム「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」が今年度で終了します。
 2月29日(月)と3月1日(火)の両日、研究開発を推進して来た東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構が、東京大学の本郷・伊藤謝恩ホールにおいてプロジェクトの成果報告シンポジウムを開催、10年間にわたる研究成果を披露しました。

 このプロジェクトは、将来のグリーンで安全なユビキタス情報社会の実現に向けて、超ブロードバンド、超安全性、超低消費電力を備えた情報システム基盤技術確立に立ち向かうことを目標に、産業界と協働して量子ドットを中心としたナノ技術、量子科学、ITの先端領域の融合を図ることで不連続的な技術革新を成し遂げ、イノベーションの創出を図ることをミッションとしています。
 海外を含めた東大以外の研究者とも強い連携を図り、内外に開かれた世界拠点の形成を目標とし、協働企業としては発足当初からシャープ、日本電気、日立製作所、富士通研究所が参画、21年度からはQDレーザも加わり、イノベーション創出のための体制が構築されました。

 研究推進母体の研究機構は、研究部門として(1)次世代ナノエレクトロニクス研究開発(2)量子情報エレクトロニクス研究開発(3)ナノ量子エレクトロニクス基盤技術研究の3部門を有し、四つの東大企業ラボ(シャープ、日本電気、日立製作所、富士通研究所)も設置、国際連携についてはスタンフォード大学、ミュンヘン工科大学、ケンブリッジ大学との融合研究も進められました。

五神真総長

五神真総長

 初日のオープニングセッション冒頭、拠点総括責任者である五神真東京大学総長が挨拶に立ち、プロジェクト10年間の取り組みと成果の概要を紹介するとともに「本機構は来年度以降も産学官連携の拠点として引き続き活動を推進する」として、昨年10月に発表した『東京大学ビジョン2020』実現に向け「今後とも研究機構の活動に対し温かいご支援を」と述べました。

 続いて登壇した来賓、寺崎智宏文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課企画官は「先端融合プログラムは行政にとってもチャレンジングなプログラムだった。世界と闘い続けた10年のその次のステージでの戦いが始まっている。今後とも独創的な成果が継続的に創出されることを期待するとともに、産業界が一丸となって拠点の成果をもとに世界に挑んでほしい」と挨拶をしました。

荒川泰彦機構長

荒川泰彦機構長

 オープニングセッション最後は、統括担当の荒川泰彦機構長による「産学官連携によるイノベーションの創出~成果と今後の展望~」と題する総括講演。
 先端融合プログラム発足前夜の我が国における科学技術プロジェクトの状況や研究拠点設立からこれまでの経緯、組織構成や活動の紹介、研究開発成果である量子ドットレーザーを用いたレーザーアイウェア(レーザー網膜操作型ウェアラブルグラス)や光インターコネクション、ナノワイヤ単一光子源を用いた量子暗号通信、量子ドット太陽電池、量子ドット光センサ等の紹介を行ないました。
 荒川機構長は拠点の今後の展開について「機構は引き続き活動を行なっていく。AIやIoTの台頭によって、これまでは下支えであったITが社会の革新を担うという雰囲気が出てきている中、ナノ量子情報エレクトロニクス融合によるイノベーションに期待したい。これは終わりではなく、次の始まりだ」と述べていました。

江崎玲於奈理事長

江崎玲於奈理事長

 夕刻にはシンポジウムの目玉、特別セッションも行なわれました。1本目がノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈茨城県科学技術振興財団理事長によるスピーチです。
 江崎理事長は「将来は現在の延長線上にない」と述べるとともに、研究者の想像力喚起を促す原動力として(1)競争的環境の中で行なわれる研究成果を的確に公表し、そこで受ける厳しい評価、忌憚の無い鋭い批判を真摯に受け止め研究の更なる発展に資する(2)創造の触媒となる他者との活発な知的交流(3)伝統から抜け出し、自由で境界を無視する大胆さ。虚心坦懐(candor)、先入観にとらわれることなく、研究対象のコアを捉え、限界に挑戦する意欲、の三つを挙げていました。

久間和生議員

久間和生議員

 特別セッション2本目は、久間和生内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員による「『第5期科学技術基本計画』の概要-超スマート社会の実現に向けて-」と題する特別講演。
 久間議員は、我が国の科学技術政策におけるプロジェクト推進に対する考え方の転換(プロデュサー制の採用)を解説するとともに、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の全体像と新しく追加されたテーマを披露。
 28年度からスタートする第5期科学技術基本計画については、これまで文部科学省が行なっていた策定を、初めて内閣府・イノベーション会議(SCTI)が行なったと紹介。さらに、求められる価値が「モノの性能、コスト、品質」から「システム・サービス」による価値へ変化しつつあることを捉え、基本計画の第2章「未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組」の中で、世界に先駆けた『超スマート社会(Society 5.0)の実現』を目標に掲げたと述べ、最後は「ナノ量子情報エレクトロニクスが『Society 5.0』の実現に貢献することを期待する」と締めくくりました。

 二日間にわたって行なわれた今回のシンポジウムでは、東京大学だけでなく、慶応義塾大学、京都大学、上智大学、東京工業大学、神戸大学などを含めた研究拠点メンバーが10年間にわたって進めてきた研究開発成果を報告。このほか上述の協働企業、シャープ、日本電気、日立製作所、富士通研究所、QDレーザの共同研究開発成果も紹介され、まさに我が国におけるナノ量子情報エレクトロニクス研究開発の最前線に触れることができた充実のシンポジウムでした。

 なお、ここでは発表メンバー全員を紹介できなかったので、詳しい情報については下記をご参照ください(京都大学は浅野卓先生が野田進先生の代理で講演されました)。

ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点
成果報告シンポジウム

http://www.nanoquine.iis.u-tokyo.ac.jp/finalreport/program.html

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート パーマリンク

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