Japan Prize授賞式、天皇皇后両陛下をお迎えして開催される ‐受賞者は細野秀雄博士とスティーブン・タンクスリー博士‐

 Japan Prize(日本国際賞)は、世界の科学技術分野で独創的な成果を上げ、人類の平和と繁栄に貢献する著しい業績をあげた科学者に授与されるものです。科学技術の全分野を対象に、毎年二つの分野を授賞対象分野に指定して、科学技術の進歩に対する貢献のみならず、私達の暮らしに対する社会的な貢献も含めて選定されます。
 同賞はもともと、国際社会への恩返しとして全世界の科学者を対象にした国際的な賞の創設を打ち出した日本政府の構想に、松下電器産業の創業者・松下幸之助氏が寄付を持って応え1982年に実現したもの。記念すべき第1回授賞式は1985年に行なわれました。

そのJapan Prizeの2016年(第32回)授賞式が4月20日(水)、天皇皇后両陛下のご臨席のもと、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で盛大に行なわれました。
 今回の対象分野は「物質、材料、生産」と「生物生産、生命環境」の2分野。「物質、材料、生産」分野では、材料科学の新領域を次々と開拓して産業の発展に貢献した細野秀雄博士(日本)が、もう一方の「生物生産、生命環境」分野では、ゲノム解析により作物育種を「経験と勘」から「科学」に高め、食糧の安定生産に寄与したスティーブン・タンクスリー博士 (米国)が受賞しました。両氏にはそれぞれ賞状と賞牌、賞金5,000万円が贈られました。

細野博士

細野博士

 細野秀雄博士は1953年の生まれで、東京工業大学元素戦略研究センター長兼同大学応用セラミックス研究所の教授。ナノ構造を活用した画期的な無機電子機能物質・材料の創製の業績が認められ、今回の受賞となりました。

 ガラスのような「透明な酸化物」は電気を通さないため、これまでは電子機能材料には不向きとされていました。これに対し細野博士は、そのナノ構造を研究することによって「透明アモルファス酸化物半導体」を開発。これは現在、液晶や有機ELディスプレイなどに幅広く用いられています。博士はさらに、超伝導物質にはならないとされていた鉄系化合物で高い超伝導転移温度も達成、典型的な絶縁体と考えられてきた物質のナノ構造を改変することによって「電気を通すセメント」を開発するなど、画期的な無機電子機能物質・材料を次々と生み出してきました。

タンクスリー博士

タンクスリー博士

 スティーブン・タンクスリー博士は1954年生まれで、コーネル大学の名誉教授です。ゲノム解析手法の開発を通じた近代作物育種への貢献が認められました。

 これまで経験と勘と偶然に頼ってきた農作物の品種改良は、ゲノム解析技術の進展によって急速に進歩しましたが、タンクスリー博士は、ゲノム解析により作物の染色体地図を作成、その後、果実の大きさなど農業の生産性に関連した遺伝子を同定するなど、品種改良に役立つゲノム解析手法を開発しました。博士の研究がもたらしたゲノム情報と育種技術の融合は、優れた形質を持つ作物の選択精度を高め、求められる作物の計画的育種と費やされる時間の短縮に大きく貢献しました。
 
 
 

受賞者を祝福される天皇皇后両陛下

受賞者を祝福される天皇皇后両陛下

 今回の式典は、天皇皇后両陛下ご臨席のもと、各界を代表する方々や学界、財界などの関係者ら約1,000名が出席しました。授賞式の後には東京藝術大学シンフォニー・オーケストラによる記念演奏会が催されましたが、演奏された曲は両博士のリクエストだったそうです。また、翌日夕刻からは東京工業大学蔵前会館(東京都目黒区大岡山)で、一般の人を対象にした両博士の受賞記念講演会も開かれました。
 
 なお、来年の受賞対象分野は「物理、化学、工学」領域からは「エレクトロニクス、情報、通信」分野が、「生命、農学、医学」領域からは「生命科学」分野が選ばれています。フォトニクス分野の研究者のさらなる受賞を期待したいところです。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です