いつでも・どこでも・だれでもレーザー

写真提供:ImPACT佐野雄二PM

写真提供:ImPACT佐野雄二PM

 去る6月13日(月)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催によるImPACTプログラム「ユビキタス・パワーレーザーによる安全・安心・長寿命社会の実現」第2回シンポジウムが、JST東京本部別館ホールにおいて開催されました。

 レーザーは、研究開発分野から産業分野まで幅広く応用されていて、数多くの成果も上げています。しかしながら、まだまだ装置が大きく取り扱いが容易でないものも多いため、より幅広い分野への適用が妨げられていると言っても良いでしょう。

 本プログラムは、佐野雄二プログラムマネージャー(PM)のもと、大型の高出力パルスレーザーを手のひらサイズまで超小型化する技術や、究極の光といわれ世界にまだ二つしかないX線自由電子レーザーを超小型化する技術を確立することで、レーザーをいつでも・どこでも・だれでも使えるようにして、新技術・新産業を創出することを目的としたものです。

 高出力パルスレーザーは、材料の材質改善や曲面形成が可能であり、構造物の寿命延長や製造工期の短縮、さらには3Dプリンターのような新たな加工・成形技術への展開も可能と注目を集めています。しかしながら、その装置は大型でかつ高額なために産業界への普及は十分とは言えず、さらに主要な技術・装置部品が海外勢に押さえられているため国際競争力に欠けるのというのが現状です。
 そこで、本プログラムでは日本独自の技術であるマイクロチップレーザー技術やセラミックレーザー媒質と高出力半導体レーザー(LD)の融合によって、高出力パルスレーザーの超小型化を目指した研究開発を行ない、ユーザーと一体となったニーズドリブンの開発で超小型化したレーザーを産業に展開するとともに、日本が遅れをとっている高出力レーザー装置・システムのシェア奪還を目標に掲げています。

 一方のX線自由電子レーザー(XFEL)は、原子レベルの構造をフェムト秒の時間分解能で観察することが可能で、創薬(膜タンパク質の構造解析)や触媒(化学反応時のダイナミクス)等、多くの研究開発分野で有用な最先端の研究開発基盤です。
 ただ、この装置は現状では世界で二つしかありません(国内では播磨の一ヶ所)。当然、装置を利用できるユーザーは限られてしまい、利用できる機会は多くて年2回とも言われています。我が国が研究や技術・製品開発で世界との競争で勝つためには、より多くのユーザーがXFELをいつでも使えるようにする必要があります。
 本プログラムでは、現在700mもあるXFELをレーザープラズマ加速技術やマイクロアンジュレーター技術によって約10mまで超小型化、トレーラーに乗せていつでもどこでも使えるようにする事を目標に掲げています。また、超小型化をいち早く実現する事で圧倒的優位性を確保するとともに、開発技術や装置を海外にも展開、日本発の技術として標準化を図り、さらには、その技術を既存の加速器や放射光施設へ展開することで、施設の性能向上に寄与するとともに、日本の科学技術力や産業競争力を強化するとしています。

(プログラムの詳細は下記をクリック)
http://www.jst.go.jp/impact/sano/program/index.html

 プログラムがスタートして約1年半、レーザー電子加速における加速長の短縮化技術やマイクロチップレーザーの高出力化など、大きな成果が得られています。今回のシンポジウムは、その現況や成果報告の他、出席者から多くの意見を得てプログラムへフィードバックするため開催されたものです。

 当日はあいにくの雨。にもかかわらず会場はほぼ満席で約150名が出席、人々の関心の高さが窺われました。先ずは、佐野雄二PMが開会挨拶、続いて登壇した久間和生総合科学技術・イノベーション会議議員は来賓挨拶の中で、ImPACT制度の説明を行ないつつ、これまではICTをベースとしたイノベーションが日本の弱みであったが、今後は世界に先駆けた超スマート社会を目指すソサイティー5.0を実現すると述べ、佐野プログラムには大いに期待すると述べていました。プログラムの概要・進捗報告で再登場した佐野雄二PMは、報告の中でXFELについて当初予定より2年前倒しで実験を行なうと発表しました。

 その後のシンポジウムは第1部、第2部、第3部の3部構成で進められました。

 第1部は「レーザー加速XFEL実証プロジェクト」です。「放射光・XFEL施設の現状と将来」と題する招待講演を行なったのは、石川哲也理化学研究所放射光科学総合研究センター長。放射光施設SPring-8のエコタイヤ応用を例に挙げ、全てのタイヤがエコタイヤになれば、年間8,000億円ものガソリン代節約になるという試算を紹介していました。また、XFEL施設SACLAに用いられている国産部品の比率98%を、次世代型では100%にすると述べるとともに、リング型光源技術は限界に近づいて来ており、最終的な光源の姿はパルス発振とCW発振のX線レーザーになると指摘しました。

 続く「レーザー加速統合プラットホームの開発」を報告した兒玉了祐大阪大学教授/光科学センター長は、レーザープラズマ加速技術やマイクロアンジェレーター技術を用いて、これまで20~50mもあった電子加速器を1mまで小型化できたと述べました。その後、細貝知直大阪大学准教授は「レーザー加速技術の開発」を報告し、加速エネルギーはまだ小さいが世界で最も安定な電子加速が実現できており、今年度中に1GeVまでの加速にチャレンジすると述べました。神門正城量子科学技術研究開発機構グループリーダーは「レーザー加速場のリアルタイム計測技術」の最新成果を報告し、この技術でレーザーや電子ビームを制御し、さらに安定な電子加速を目指すと述べました。

 第2部は「超小型パワーレーザープロジェクト」です。「青色半導体レーザー積層技術とパルスレーザーへの期待」と題する招待講演を行なった塚本雅裕大阪大学准教授は、SIPの次世代レーザーコーティングプロジェクトを報告。時代はレーザークラッディングから高度化したレーザーコーティングへ向かうとして、青色半導体レーザーでアルミニウムに銅をコーティングした事例を紹介。パルスレーザーを用いたCFRP加工にも触れていました。

 続いて「マイクロチップレーザーの開発」を報告した平等拓範分子科学研究所准教授は、メガワット級のマイクロチップレーザーを用いたエンジン向け点火システムを紹介しました。放電型の点火プラグをレーザーによる点火プラグに置き換えることによりエンジン燃焼効率の向上が見込まれます。平等准教授は、Yb-YAGからNd-YAGロッドへ回帰すると指摘するとともに、いつでもどこでものユビキタス化を目指して、次世代の高輝度マイクロチップレーザーは高繰り返し化、波長域の拡大、ギガワットからテラワットへの高エネルギー化が重要と述べました。

 「高出力小型パワーレーザーの開発」を報告した川嶋利幸浜松ホトニクスグループ長は、セラミックを用いたテーブルトップ型の高出力小型パワーレーザーを紹介。プロジェクトは2015年の夏にスタート、2018年まで続ける予定です。すでに300~500Wの励起用高出力LDバー・スタックの開発に成功しており、この夏には100mJ、繰り返し率300Hzを達成する計画で、今年度中にはパルスで1Jを目指すと述べていました。

 第3部の「超小型レーザーの応用展開」では、先ずは浅井知大阪大学教授が「超小型パワーレーザによる革新的スマート溶接システムの開発」を報告しました。溶接の80%は未だアーク溶接で、現状では検査や補修などの厄介な特殊工程が必要だそうです。浅井教授は、溶接中に検査をして品質の制御・保証を行なう自動溶接システム(インプロセス溶接)が必要と述べ、レーザーをセンサーとして用いるレーザー超音波法やレーザーでアーク誘導を行なう溶接法、レーザーピーニングなどを紹介。マイクロチップレーザーを用いれば検査装置を小型化でき溶接ロボットと一体化できるため、大型装置が置いてある現場に持って行き溶接と検査が同時にできるようになると述べていました。

 高橋一哲ユニタック副社長は「超小型皮膚疾患用ピコ秒レーザー治療器の開発」を報告しました。波長1064nmや532nmnのマイクロチップピコ秒レーザーによる光音響効果を用いて、刺青や色素性病変を治療するというものです。従来のピコ秒レーザーは大型で、価格も3,000万円と高額なため、治療に際して患者負担が大きく、さらに国産の装置も少ないというのが現状です。高橋副社長は、大きさが310×330×212mmで重さも12kgというテーブルトップ型を実現するとともに、価格も一桁下げたいと述べていました。

 「航空機構造部材のレーザーピーンフォーミング技術の開発」を報告したのは、政木清孝沖縄工業高等専門学校准教授です。航空機の主要部材がアルミ合金からチタン合金に移っていく中、これまでの機械加工では加工箇所において曲がりや反りが大きくなってしまい、その矯正にも時間と手間がかかるという問題があります。政木准教授は、浜松ホトニクスグループが開発中の高出力パワーレーザーを使用したレーザーピーンフォーミングにより、省力化と強度向上の両立が可能になると述べていました。

 最後の発表、南出泰亜理化学研究所チームリーダーによる「セキュリティ応用に向けたテラヘルツ波センシング技術の開発」は、平等拓範准教授による「マイクロチップレーザーの開発」のなかで実施していましたが、今期から新たに独立したテーマです。マイクロチップレーザーとニオブ酸リチウムを用いたテラヘルツパラメトリック発振により、従来をはるかに凌ぐ強度のテラヘルツ波の発生と高い検出感度を達成しました。テラヘルツ波で特定の物質の指紋スペクトルを検出することにより、テロ対策といったセキュリティー分野で役立てようというものです。

 閉会の挨拶で佐野雄二PMは、アイデア公募で採択された現在の9件に加え、今年の9月から10月にかけて、システム化の公募に加えて次のアイデア公募を行なうとともに、マイクロチップレーザーの製品化公募も行なうとして、新しい提案をぜひ待っていると述べていました。

 シンポジウム終了後、会場を変えて行なわれた意見交換会には、佐野雄二PMや久間和生総合科学技術・イノベーション会議議員の他、講演者を含め、会場がたいへん狭く感じられるくらいの多数の方が出席、活発な意見交換を交わしていました。

編集顧問:川尻多加志

 

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