日本のイノベーションに光は見えるのか?

 先ごろ東京・大手町サンケイプラザで開かれた大阪大学フォトニクス先端融合研究センター主催による「第9回フォトニクスシンポジウム」。そこでは日本のイノベーションが抱える問題点や方向性が示されました。

 大阪大学では平成19年に「フォトニクス技術イノベーションの創出」をミッションに掲げ、文部科学省先端融合領域イノベーション創出拠点プログラムによって大阪大学フォトニクス先端融合研究拠点を創設。プログラムはこの3月をもって終了しますが、今回のシンポジウムはそれを記念して行なわれたもの。最後のシンポジウムに相応しい「フォトニクスとイノベーション」というテーマのもと開催され、その内容は基調講演、海外招聘講演、フォトニクスセンターの取り組み紹介、パネルディスカッション、ポスターセッション等、多岐に渡るものでした。

西尾章治郎 大阪大学総長

西尾章治郎 大阪大学総長

 開会の挨拶と最初の講演に立ったのは、大阪大学の西尾章治郎総長。西尾総長は「プログラムは今年度で終了するが、これまでの実績をベースに、さらに広範で大規模な事業化、産業化を推進するとともに、これからのさらなるイノベーション創出のシーズとなる基礎的なフォトニクス研究から研究成果の社会実装までをシームレスに遂行する教育研究施設として、来る4月から工学研究科付属フォトニクスセンターを新たに設置する」と表明しました。
 工学研究科内にセンターを設置したのは、卓越した知の拠点として産学官連携による共同研究の推進、国際的な研究拠点への進化を図るとともに、これら諸活動を通じて若手研究者の育成、特に産業イノベーションを創出する人材を次々に輩出できる体制を構築するためとのこと。その実現のために関連する専攻と密接に連携して推し進めて行きたいと述べました。

 来賓挨拶で登壇したのは、文部科学省の真先正人大臣官房審議官(科学技術・学術政策担当)。真先審議官は「産業界と国が一体となって作った本格的な取り組みである第5期科学技術基本計画では、超スマート社会を実現する『Society 5.0』の推進が提案されている。光量子技術はまさにそのプラットフォーム技術であり、強力に推進して行くべきと捉えられている」と指摘するとともに、そのためにも「人材育成、特に知的プロフェッショナルが求められている」と述べました。

 基調講演は2本。1本目は科学技術振興機構・顧問であり、科学技術イノベーション創出基盤構築事業の相澤益男運営統括(PD)による「産学連携のフロンティアを切り拓く先端融合領域イノベーション創出拠点」でした。相澤PDは、大変革の鍵を握るのは科学技術・イノベーションであるが、ゆゆしき問題が顕在化して来たと指摘します。
 その一つが、イノベーションにおける日本の国際的優位性の低迷。スイスのような経済小国がイノベーション強国として躍進し、世界におけるトップグループの座を譲らないという現状を踏まえ、世界におけるイノベーションは劇的に、しかも迅速に変化している中、世界を視野に日本のイノベーションを厳しく見直すべき時ではないかと指摘しました。
 二つ目に挙げたのが、科学技術論文に起こっている激震です。論文総数、トップ1%および10%引用論文の何れにおいても中国はダントツの勢い。ノーベル賞の受賞者については健闘しているものの、科学技術における日本の総合力の劣化は深刻だと警鐘を鳴らしました。
 その上で、日本が「抜本的に強化すべきは『イノベーションの源泉となる』基礎研究と人材育成」であり「さらに強化すべきは、本格的産学連携による『共創の場』を基盤とした持続的なイノベーションの創出と人材育成」で「その上で挑戦すべきは、世界を惹きつけるイノベーションハブとしての戦略強化だ」と述べました。

 基調講演の2本目は、大阪大学フォトニクス先端融合研究拠点を立ち上げ、初代拠点長を務めるとともに、フォトニクスセンター長も務めた河田聡大阪大学教授による「学問の壁の破壊と新産業の創出:阪大フォトニクスセンターの試み」。
 河田教授は、20世紀までの学問体系は「物理学」や「化学」といった縦割りであったが、20世紀後半には「Interdisciplinary」という概念が一般化、二つの学問を組み合わせる学問間連携の必要性が問われ、その研究が増えて行ったと述べます。
 ところが、日本人はこの「Interdisciplinary」という概念が得意ではなく、旧来の縦割り学問の中心にいたいと思う人の方が多く「Inter=間を繋ぐ」ことに興味を持つ人は多くないと感じたそうです。そもそも、間を繋ぐという意味の「Inter」が用いられている「Interdisciplinary」の日本語訳自体が「学際」。この「際」という言葉は、日本では「きわ」と読み、その意味は「端っこ」で、使われ方も「瀬戸際」「別れ際」「いまわの際」といったネガティブなものが多いと言います。これを当てはめた「学際」や「国際」という言葉では「きわ」と「きわ」の繋がり程度の意味しか持たないのではないかと指摘しました。
 河田教授は、21世紀は「Transdisciplinary」の時代であると述べます。それも「超学際」ではなく「学貫」というような概念で考えるべきで、単に組み合わせただけの融合では「端っこ」の人達は不幸だとします。
 オープンイノベーションについても、自身の経験から、単にそこに集まっている人達だけの、いわば「談合」になっている場合があるのではないかと警鐘を鳴らします。そして、こう指摘します。「本当のイノベーションはたくさんの人が集まって生まれるのではなく、一人から生まれる。本当の発明は予期せず、突然生まれるものだ」と。さらには、計画を作って計画通り実行するのではなく、余裕を持たせることができるかが肝要で、これからのイノベーションは、組織中心から人中心に考え方を変えなければならないと指摘しました。
 河田教授は、最後に老子の第57章に書かれている「為政者は何もするな。そうすれば人々は自らを正すだろう」という言葉を紹介するとともに、サン=テグジュペリの「船を造りたいのなら、男どもを森に集めたり、仕事を割り振って命令したりする必要はない。代わりに、彼らに広大で無限な海の存在を説けばいい」という言葉で講演を締め括りました。

 午前の最後に行なわれた海外招聘講演では、National Taiwan University, Academia SinicaのDin Ping Tsai教授とMax Planck Institute for the Science of Light, ErlangenのGerd Leuchs教授が、それぞれの国のフォトニクス関連研究を紹介しました。

 昼食後の午後の講演ではフォトニクスセンターの成果発表が行なわれ、井上康志フォトニクスセンター長がセンター全体の話を、協働企業の島津製作所の品田恵研究員が「ガスクロマトグラフ用プラズマフォトニクス検出器の製品化」と題し、商品化に至った共同研究内容を紹介。続いて森勇介大阪大学教授が「フォトニクス結晶のイノベーションで社会貢献」、高原淳一大阪大学教授が「ナノテクノロジーによる白熱電球の復活と起業製品化」を紹介しました。

 シンポジウム最後は、フォトニクス・イノベーションを如何に興していくかというテーマでパネルディスカッションが行なわれました。パネラーは、田中一宜産業技術総合研究所名誉リサーチャー、寺崎智宏文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課地域支援企画官、品田恵島津製作所研究員、河田聡大阪大学教授、田中敏嗣大阪大学工学研究科社会連携室長、井上康志大阪大学フォトニクスセンター長の面々。
 活発な議論の中でも、一人のパネラーから発せられた「新しいものを生み出すには、何かが終わらなければならない。その終わることを認めることができるのか。交代して行くという覚悟が日本にあるのか。今が恵まれているから失敗が怖いし、変化が怖いのではないか」という主旨の発言は、日本のイノベーションが持つ問題点を示唆するものでした。

 なお、ラウンジではフォトニクスセンターに参画する21の研究室によるポスターセッショが行なわれるとともに、夕方から行なわれた懇親会においても講演者と来場者との間で活発な意見交換が行なわれていました。

編集顧問:川尻多加志

 

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