自動運転技術進展の鍵を握るフォトニクス

 いま一番ホットな話題の一つとして取り上げられることの多い自動運転。リーガロイヤルホテル東京(東京 新宿区)で開かれた「平成28年度光産業技術シンポジウム」(主催:光産業技術振興協会、光電子融合基盤技術研究所)では、この自動運転やロボットなどの領域にフォトニクス技術がどのように適用されて行くのか、最新の状況が紹介されました。
 シンポジウム今年のテーマは「未来の自動車・ロボット・産業機械を支えるフォトニクス」。自動運転とセキュリティ、ロボットの進化、LiDAR技術、自動車フォトニクスのテクノロジーロードマップ、医療イメージング、さらに光エレクトロニクス実装システム技術の開発について、各分野のエキスパートが講演を行ないました。

 冒頭、「開会挨拶」に立った光産業技術振興協会・専務理事の小谷泰久氏は、政府の掲げる日本再興戦略の中で日本経済の未来を切り開く第4次産業革命の重要技術であるIoTや人工知能、ビッグデータといった革新的技術を使って如何に新しい商品やサービスを生み出すかが重要とした上で、光センサーや光通信ネットワーク、車載用カメラ、車載ネットワーク、医療・健康分野における画像処理技術といった様々な光技術は、そこで役に立つ技術であると述べました。

 経済産業省・商務情報政策局・情報通信機器課長の三浦章豪氏は「来賓挨拶」の中で、成長ががすべての前提であり、第4次産業革命、AI、IoT、ビッグデータを如何に社会に実装させていくか、言葉だけでなく実際に儲ける事を考えなければいけない時期に来ており、新しいビジネスモデルを作って行く必要があると述べました。また、日本としては最先端の技術を開発して、世界に先駆け商品化してグローバルに売って行くということを続けて行かなくてはならないとして、光技術にはまだまだ伸びしろがあり、最大限のサポートをして行きたいと述べました。

 この後に続く基調講演は「自動運転と制御系セキュリティ」と題して、電気通信大学・情報理工学研究科・教授の新誠一氏が講演。21世紀の自動運転に不可欠な技術として、高精度カメラと画像プロセッサー、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の組み合わせを挙げるとともに、光通信技術は近未来の自動運転車の電磁障害対策に効果的だと指摘。さらにサイバーセキュリティの確保も自動車業界にとっては急務であり、中期的に光化への期待が大きいと述べていました。

 招待講演は全部で4本。1本目の「Amazon Picking Challengeとロボットの進化」を講演したのはPreferred Networks・エンジニアの米辻泰山氏です。「Amazon Picking Challenge」というのは、Amazonが主催するロボットコンテストで、倉庫の棚から商品をピッキングするという作業をロボットで競うというもの。米辻氏のグループは短い準備期間の中、Pick部門で2位(得点は1位タイ)、Stow部門で4位という好成績を収めました。センサーにはDepthカメラとLiDARを使用、画像のセグメンテーション問題ではディープラーニングを用いたそうです。現在は製造業がメインのロボット適用の可能性を物流分野でも示せたと述べていました。

 「自動運転を実現するLiDAR技術」を講演したのは、パイオニア・自動運転事業開発部・技術研究部長の村松英治氏で、自動運転におけるLiDAR技術の役割と現状の課題を紹介。走行空間センサーとして周辺環境認識を行なう機能だけではなく、自動運転用高度化地図との組み合わせによる自動位置推定、地図生成を行なうLiDAR技術のコンセプトと同社の取り組みを解説するとともに、LiDARにおいては従来型のリッチな汎用センサーではなく、車載アプリに特化した小型で低コストな専用センサーが求められるとして、同社の開発事例を紹介しました。

 「光テクノロジーロードマップ-自動車フォトニクス-」を講演したのは、東京工業大学・工学院・電気電子系・准教授の西山伸彦氏。西山氏は、ロードマップを作った光産業技術振興協会の自動車フォトニクス・ロードマップ策定専門員会の議長。講演では、自動運転開発においてフォトニクスに何ができるかをテーマに話が進められました。車外状況検知用センサーでは、あらゆる状況でも遠方を監視することが求められ、将来的には赤外カメラも加わりカメラの高解像度化が進むとして、測距技術ではメカレス型のLiDARで解像点数、フレームレートの向上が進んで行くと述べました。HMI(Human Machine Interface)技術においては、レベル3では覚醒状態検知・判断の高速化が求められるため、表示技術の高度化・高解像度化が必要になる一方、レベル4になると、この表示技術は車内エンタテイメント用で使われると述べました。さらに通信技術においては、車内では400Gbpsクラスの光ハーネスの実現が必要であり、車外においては低遅延で小規模大量パケットなど、従来のインターネット通信に加えた特殊な通信が必要と指摘しました。

 招待講演最後は、メディカル・イメージング・ コンソーシアム副理事長の谷岡健吉氏による「8Kテレビ技術とその内視鏡手術への応用」で、8K技術の概説と医療応用での数々の利点、普及のための技術面での課題、展望を紹介しました。谷岡氏は、技術課題として超高感度な8Kイメージセンサー実現のためのHARPの固体化を挙げるとともに、ディスプレイにおいては価格や視野角、軽量化・薄型化においてまだ問題が残っているとした上で、慶應義塾大学の小池教授が開発した高性能プラスチック光ファイバーやボールペン型インターコネクト技術の適用や産業技術総合研究所の「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」との連携によって、8K遠隔医療の実現を図りたいと述べていました。

 最後の講演は、光電子融合基盤技術研究所・CPU間インターコネクト・テーマリーダーの土田純一氏の「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発~光I/Oコアの性能とシステム評価」。プロジェクトの概要、光I/Oコア、光I/O付きLSI基板、光電子集積インターポーザ―を実現するための集積光デバイス技術の開発の狙いと開発進捗を報告しました。さらに、開発中のFPGA(Field Programmable Gate Array)と光I/Oコアを用いたボードの概要とシステム評価の進捗および今後の取り組みについても報告。具体的成果として、光I/Oコアにおいて低消費電力(5mW/Gbps)・超高速(25Gbps×12ch)のチップサイズ(5mm角)トランシーバーの実現、光I/Oコアを用いたMMFでの25Gbps、300m伝送の実現、FPGA周辺に光I/Oコアを実装してBtoB、300mの伝送実証等を挙げていました。

 今回のシンポジウム、あくまで個人的感想ですが、自動運転に関して重要なのはダイナミック・マッピングであり、少し大げさに言えば地図を制する者が自動運転を制するのではないだろうかという印象を受けました。

写真右:東京工業大学 小山二三夫氏  写真左:後列左から 古河電気工業 黒部立郎氏、同 越浩之氏  前列左から 櫻井健二郎氏記念賞委員会 委員長 荒川泰彦氏、古河電気工業 向原智一氏、同 木村俊雄氏 光産業技術振興協会 専務理事 小谷泰久氏

写真右:東京工業大学 小山二三夫氏
写真左:後列左から
古河電気工業 黒部立郎氏、同 越浩之氏
前列左から
櫻井健二郎氏記念賞委員会 委員長 荒川泰彦氏、古河電気工業 向原智一氏、同 木村俊雄氏
光産業技術振興協会 専務理事 小谷泰久氏

 なお、シンポジウムの終了後には、同じ会場で恒例の櫻井健二郎氏記念賞の受賞式が行なわれました。櫻井健二郎氏記念賞は今回で32回。応募13件の中から受賞したのは「デジタルコヒーレント通信用狭線幅波長可変光源の開発と実用化」を行なった古河電気工業の向原智一氏、木村俊雄氏、越浩之氏、黒部立郎氏の四名と「面発光レーザを中心とするフォトニクス集積技術の開発」を行なった東京工業大学・未来産業技術研究所・教授/所長の小山二三夫氏でした。

 「デジタルコヒーレント通信用狭線幅波長可変光源の開発と実用化」では、デジタルコヒーレント通信用光源の開発に取り組み、多数のDFBレーザからなる多波長アレイと複数の光機能素子を同一基板上にモノリシックに集積する化合物光半導体技術や従来に比べパッケージ体積を半減化する樹脂接着技術、並びに高性能な制御電子回路技術の開発により、世界最高水準の高出力・高安定の狭線幅波長可変レーザ光源の実現に成功、デジタルコヒーレント通信の発展・普及に貢献したことが評価されました。

 もう一方の「面発光レーザを中心とするフォトニクス集積技術の開発」は、伊賀健一・東京工業大学名誉教授(第3回:1987年度受賞)とともに面発光レーザ(VCSEL)の室温連続発振を1988年に世界で初めて達成し、以来その性能向上と新機能創出に関する研究を継続、MEMSミラーによる波長制御やスローライトなどの新機能を包含するVCSEL集積フォトニクスの道を切り拓き、データセンタにおける光インターコネクトや日本初のレーザプリンタなどの技術発展を触発、光産業技術の新しい展開に大きく貢献したことが評価されたものです。

編集顧問:川尻多加志

 

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