光技術は医療・ヘルスケアをどう変えるのか

 安全・安心で持続可能な社会を実現するためにも、医療分野と工学の連携による新しい診断、治療、ヘルスケア機器の開発が必要と言われています。その最先端研究の一端が、秋葉原UDXカンファレンスで開かれた第6回電子光技術シンポジウム(主催:産業技術総合研究所(産総研)電子光技術研究部門、共催:光産業技術振興協会(光協会))で披露されました。
 
 産総研・電子光技術研究部門では電子技術と光技術、およびその融合領域に関する最先端の研究開発と新産業創出の展望に関する情報を提供するため、同研究部門を中心とした産総研の研究成果を紹介するシンポジウムを毎年開催しています。今年度のテーマは「光技術の医療・ヘルスケアへの展開」、5件の招待講演を含む10件の口頭発表が行なわれました。
 

開会挨拶をする金丸正剛氏

開会挨拶をする金丸正剛氏

 
 「開会挨拶」に立った産総研・エレクトロニクス・製造領域長の金丸正剛氏は「研究開発側から見ると、医工連携がこれまでなかなか進まなかったのは技術がまだまだ成熟しておらず、現場で使うには十分でないということも大きな原因ではなかったかと思っている。今回のシンポジウムでは産総研における十数年の開発の中で、技術的にもかなりの進歩を遂げ、実際の現場との連携も非常に活発化しているという状況を知っていただきたい」と述べていました。
 
 
 一方、続いて登壇した光協会・専務理事の小谷泰久氏は「これまでのクラシカルな光技術領域では、技術が成熟して新しい動きが出にくくなっている。その代わりにIoTやAI、ロボット、自動車、医療・健康分野などへと応用領域は拡がっている。気をつけるべきは、光技術はこれまで最先端の性能を追い求めてきたが、例えば自動車や医療分野ではそのような性能より温度環境性や安全性・信頼性といったものが重要視される。求められるものが移ってきている」と述べていました。

 午前中の口頭発表のトップバッターは、産総研・健康工学研究部門・副研究部門長の鎮西清行氏で、講演タイトルは「医工連携における産総研の活用方法」、産総研における医療機器開発支援システムを紹介しました。続いて「光を用いた生体計測-細胞から個体まで-」を浜松ホトニクス・中央研究所・主幹の山下豊氏が講演。その後、産総研・電子光技術研究部門の黒須隆行氏による「光パスネットワークによる超高精細映像伝送とその医療応用」の講演が行なわれ、光による細胞・個体計測や8K画像を使った遠隔医療などが紹介されました。
 
 昼食をはさんで、午後は「レーザによる革新的な非熱的不整脈治療装置:我が国発技術の実用化」と題し、慶應義塾大学・理工学部・教授の荒井恒憲氏が不整脈治療装置の開発事例を紹介。続く産総研・電子光技術研究部門の研究成果報告では「低侵襲プラズマ止血装置の開発・実用化と国際標準化」(榊田創氏、池原譲氏)、「超短パルスレーザー加工と人工関節への応用」(屋代英彦氏)、「白色パルス光プロセスと無電解めっきを利用した手術器具作製」(島田悟氏)が紹介されました。

 休憩の後、オリンパス・モバイルシステム開発本部・部長の溝口豊和氏は「マルチスペクトル撮像デバイス技術」を講演、マルチスペクトル撮像によるデジタル病理診断を紹介。大阪府立大学・大学院工学研究科・教授の久本秀明氏は「医療・バイオ分析応用を目指す高機能材料集積型マイクロ分析デバイス」の中で、化学修飾したキャピラリー型マイクロ分析デバイスを紹介して、最後の講演は産総研・電子光技術・研究部門の安浦雅人氏による「近接場光を利用した微生物高感度検出」、光散乱の光信号用微粒子と磁気微粒子を使った微生物検出の研究事例を紹介しました。
 
 広帯域で低侵襲、空間並列といった特長を有する光技術は、イメージング機器として医療現場で幅広く利用されるとともに、新たな医療・ヘルスケア機器を創出することが期待されています。今回のシンポジウムで紹介された医工連携や光技術を用いた低侵襲治療技術、革新的デバイスや手法を用いたイメージング・センシング技術等の研究開発動向には今後も目が離せません。

編集顧問:川尻多加志

 

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