最終章:ユビキタス・パワーレーザーが切り開く未来社会

 月刊オプトロニクスや単行本の編集に携わって31年、この度オプトロニクス社を退職することとなりました。特集、連載、単行本、セミナー等の企画やご執筆などでお世話になった方々、読者の皆様、長い間、本当に有難うございました。本ブログも、私の担当は今回で最後となります。皆様方のご健勝とご活躍、光エレクトロニクスの発展を心よりお祈り申し上げております。

 さて、ImPACTプログラム「ユビキタス・パワーレーザーによる安全・安心・長寿社会の実現」の「超小型高出力パルスレーザー 第3回研究会」が7月の末、TKP東京駅大手町カンファレンスセンターで開催されました(主催は内閣府と科学技術振興機構)。

 「ユビキタス・パワーレーザーによる安全・安心・長寿社会の実現」プログラムではレーザー加速XFELの実証と並行して、超小型・高繰り返し・高出力パルスレーザーの開発が進められています。本プログラムでは、これらの課題を克服することでレーザー適用の妨げとなっている装置のサイズやスループットの問題を解決、製造現場や診断技術といった幅広い分野へ適用することで、産業および社会に革新を起こすことを目標としています。

会場風景 プログラム終了まで残り1年半となったこの時期に行なわれた今回の研究会では、掌サイズの高出力パルスレーザーとテーブルトップ機の2種類の超小型高出力パルスレーザーのこれまでの開発成果や今後の予定が紹介されるとともに、製品化に向けた取り組みや様々な分野への応用展開に向けた取り組み事例が紹介されました。

 参加申し込み人数は、実に157名に上ったそうです。中でも産業界からの申し込みは124名、この数字は本テーマに対する産業界の注目と期待の高さを示していると言えるでしょう。

佐野雄二プログラムマネージャー 当日の研究会は、ImPACT・プログラムマネージャーの佐野雄二氏による挨拶で幕を開け、続いて内閣府のImPACT担当室参事官の鈴木富男氏が登壇、ImPACTの意義を含め制度の概要を解説するとともに、参加者に対しは残りの1年半、引き続き研究会に参加していただき、一体となってプロジェクトを進めて行きたいと述べました。

 研究会は第1部、第2部、第3部と三つに分けて進められましたが、午前中の第1部「超小型パワーレーザー・応用の開発」では、佐野氏が「ImPACT超小型パワーレーザー開発の概要」を紹介、佐野氏の講演の後に紹介される二つの超小型パワーレーザー(ポテンシャルユーザー向け掌サイズ高出力パルスレーザーと既存ユーザー向けテーブルトップ機)の研究開発の現状と今後の計画、製品化と応用開発の取り組みについて概説する一方、JSTやNEDOにおける同様テーマのプロジェクトとも情報交換を密にして連携して行きたいと述べました。
 佐野氏は最後に、研究会をレーザーの製品化(シーズ)と応用(ニーズ)のマッチングの場として活用して、競争と協調により競争力の高い技術・製品を低価格で提供して行きたいと講演を締め括りました。

 続く浜松ホトニクス・副センター長の川嶋利幸氏は「高出力小型パワーレーザーの開発」の中で、同社が開発したテーブルトップ機を紹介、独自技術を用いた半導体レーザーによって従来の放電ランプ励起(~1%)に比べ効率を10倍以上向上させたと述べ、このレーザーを励起用として用いたNd-YAGセラミックレーザーにおいて出力目標の1.01J/パルス×300Hz(303W)を達成したと報告しました。発振波長は1064nm、パルス幅34ns、装置サイズは1.2×2.4mとのことです。
 同社では今後、半導体レーザーをさらに高性能化することで増幅器の小型化を図るとともに、噴流冷却から背面水冷にすることで冷却装置の負荷を低減させ、高出力・高繰り返し用にアップグレードする計画。製品化に際しては、態勢が整えば4か月程度で納入したいと述べ、価格も4,000~5,000万円を目標にしたいとのことでした。
 
 分子科学研究所・准教授の平等拓範氏は「マイクロチップレーザーの開発」の中で、応用分野の進展を考えた場合にはマイクロチップレーザーの高エネルギー化、高繰り返し化、波長域拡大化が必要と述べました。そして、その実現のために複数のレーザー利得媒質とヒートシンクを重ね合わせたDFC(分布面冷却)構造の小型集積レーザーを開発したことを紹介、さらにダメージに強く安定で何処にでもある水晶を接合した48積層QPM-水晶で第2高調波を(8.07μJ)発生させた実験成果も報告しました。
 平等氏は、DFC構造のモジュール化によって高強度・大出力レーザーを実現、その破壊的イノベーションでパラダイムシフトを起こしたいと述べるとともに、いつでも、どこでも、任意の波長が出せるギガワット・テラワットクラスのユビキタス・パワーレーザーが実現できれば、表面・材質改善や点火・燃焼、検査、計測、分析・イメージング、痣取り治療など、幅広い分野での応用が期待できると述べました。

 午前中第1部の最後の講演者、浜松工業技術支援センター・上席研究員の鷺坂芳弘氏は「浜松工業技術支援センターの紹介とレーザー試用プラットフォーム」を講演。同センターの光科は全国の公設試で唯一の光専門の部署で、その業務はレーザー加工と光計測に特化しているとのことです。光科はレーザー加工の技術支援事業や、光産業創成大学院大学が主催するレーザー中核人材育成事業の内、レーザー加工機を用いた実習を担当しているそうです。
 講演では、プラスチックのレーザー染色装置や透明プラスチックのレーザー溶着装置など、具体的な研究開発事例も紹介されました。ImPACT終了後のマイクロチップレーザーの応用研究は、同センターのレーザー試用プラットフォームで進められ、マイクロチップレーザーの問題点や要望を収集して商品仕様にフィードバックしたり、マイクロチップレーザーの用途開発を企業への支援を含めて行なう計画です。

 午後に入っての第2部は招待講演で、「超小型パワーレーザー関連技術・製品」を切り口として、東海大学・准教授の河野太郎氏が「皮膚科・形成外科領域におけるピコ秒レーザーの有用性」を紹介、オキサイド・代表取締役社長の古川保典氏が「波長変換用非線形結晶及びUVレーザーの製品開発状況」、リコー・インダストリアルソリューションズ室長の鈴圡剛氏が「面発光半導体レーザー(VCSEL)の開発状況」、三菱電機・技師長の平野嘉仁氏が「三菱電機のレーザー開発とその応用」、東京大学・准教授の小林洋平氏がNEDOの「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」プロジェクトを紹介しました。小林氏は「なぜ物は切れるのか?」と根源的な疑問を提示し、「そこで何が起こっているのか、本当のところは分かっていない」として、「物が破壊されるという物理にチャレンジすべきだ」と述べていました。

 休憩を挟んでの第3部は、超小型パワーレーザー製品化・応用システム化に関する公募参画機関の実施内容の紹介となりました。パナソニックプロダクションエンジニアリング・主任技師の永田毅氏が「μCHIP及び、μCHIPレーザの開発」、オプトクエスト・部長の多久島裕一氏が「スケーラビリティに配慮した高出力マイクロチップレーザーの製品化」、ニデックの足立宗之氏が「高精度・高安定・高機能な眼科手術装置を目指したマイクロチップレーザー」、大阪大学・教授の浅井知氏が「先進的スマート溶接システムの開発」、ユニタック・副社長の高橋一哲氏が「超小型皮膚疾患用レーザー治療器の開発及び実証評価」、東芝・技監の岡田直忠氏が「リチウムイオン電池向けレーザクリーニング」を紹介しました。そして最後、IHIエアロスペース・主任の松浦芳樹氏が、アイデア提案として「宇宙機用液体燃料エンジンのレーザー点火システムの実現」の講演を行ないました。

 各講演の後、国立高等専門学校機構・特命教授の柴田公博氏が今回の研究会の講評を述べて、研究会は閉幕。柴田氏は、自動車車体のレーザー加工に携わってきた経験から、ビームの品質面や安定性を含めてレーザーを開発して欲しいと要望、品質保証技術についても生産技術者が安心して使えるものが求められると述べました。
 さらに、従来技術の単純な置き換えでは上手く行かないし、多少の原価低減では生産技術者は魅力を感じないと指摘、構造そのものが変わるような提案を設計技術者に訴え、製造と設計が手を携えて行けるような仕組みが重要と述べました。

 その後に開かれた意見交換会でも、参加者の間では活発な議論が交わされていました。研究開発のさらなる進展と、それによって多くの人が希望を持てる明るい未来社会が実現することを期待したいと思います。

編集顧問:川尻多加志

 

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