主要研究機関に見る光ナノテクデバイス

 東京ビッグサイトで1月29日から31日まで開催された「nano tech 2014」。主催者発表によれば国内出展者数496、海外(21の国・地域)出展者数142、来場登録数は3日間で45,841人でした(他にも六つの展示会が同時に開催されましたが、それらの出展者数や来場登録数はこの数字には含まれていません)。

 今回は、ナノテクでも光に関連するデバイス、それも我が国における主要研究機関で行なわれている幾つかの研究・開発にスポットライトを当ててみました。

 

物質・材料研究機構【物質・材料研究機構】

◇光異性化反応を利用した光機能有機トランジスタ:光電変換やメモリ、多値スイッチングといった機能を新規トランジスタ素子構造で実現して、分子デバイスの新しい動作原理を実証する研究を行なっている。光異性化分子を用いて可逆的な光誘起半導体-絶縁体相転移を実現した。オンオフ比で200:1という光スイッチ動作を確認しており、光でイオン分極する分子をDual-gate型トランジスタに応用した素子では、メモリ効果を持った多値スイッチ動作を実証。

◇フォトニックラバー:変形で色が変わるゴム状フォトニック結晶。直感的に認識しやすい色や発色特性を利用して、ものの変化や危険の察知、生活の豊かさの向上などに役立てる。日常的にありふれた材質を用いて、微細構造の制御によって様々な発色が可能で、かつその色が変形によって変化する弾性材料を開発するとともに、工業化が可能な製造技術の開発を目指している。

◇発光ナノシート:照明やディスプレイデバイスなどの高機能化のための高輝度、低環境負荷、多彩な発光色など、様々な特徴を持った発光材料を開発している。発光材料のナノシート化によるホスト励起を介した発光の誘起(強度増加)や容易で安価な発光ナノシート稠密配向膜の製作、発光ナノシートと様々な物質の組み合わせによる励起および発光波長などの制御に関する研究を行なっている。

◇液状アントラセンを基材とするフルカラー発光制御:発光特性の光・熱安定性に優れ、簡便にフルカラー発光の調整が可能で、さらに過度な折曲げを想定したフレキシブルデバイス加工に最適な蛍光色素の開発を研究。汎用の有機蛍光色素アントラセンに、柔らかく、かさ高い側鎖を導入する事で優れた光安定性を持ち、フルカラーで発色する塗布可能な液体材料を開発した。

 

産業技術総合研究所【産業技術総合研究所】

◇サブミクロン球状粒子の光学応用:サブミクロンレベルで形状の揃った1次粒子より成る様々な結晶性球状粒子の合成と光学応用を研究。液中レーザ溶融法によって結晶性の酸化亜鉛や酸化チタン等のサブミクロン粒子を合成し、これらを用いる事で優れたレーザ発振特性を有するランダムレーザの構築や太陽電池特性の向上が可能な事を確認した。

◇光で相変化を示す有機材料:耐熱・耐光性に優れ長期データ保存が可能な、光と熱の作用によって可逆的な相変化(結晶相-アモルファス固体相)を示す有機材料の開発を行なっている。有機材料を用いる事で、メディア製造プロセスにおいて、塗布や印刷が適用でき省エネに貢献する。アントラセンに特定の置換基を導入することで材料を開発、フォトマスクによって位置選択的に相変化させ、簡便な偏光観察で目視ができる光パターンの作成に成功した。

◇調光フィルタを用いた新生児医療への応用:電気的に透明状態と着色状態切り替える調光フィルタの実用化研究を行なっている。早産児は昼夜のある環境で育てる方がより体重が増加するが、新生児集中治療室は治療を行なうため夜間、暗くならない病院もあるという事で、この調光フィルタを新生児の医療ケア用保育器へ応用するとともに、材料の基本性能を確認している。

◇酸化物発光デバイス:化学的安定性や耐熱性に優れたペロブスカイト型酸化物を用いて100V以下で駆動する自発光薄膜型ELデバイスやカソードルミネッセンスデバイス(CL)の開発、ならびに次世代照明・ディスプレイへの応用研究を行なっている。14V、1kHzの交流電圧を加えて透明電極全体で色純度の優れた赤色発光に成功しており、蛍光薄膜に電子線を照射して最高輝度200cd/m2のCLを得る事にも成功。

 

理化学研究所【理化学研究所】
◇新世代塗布型有機エレクトロニクスの材料・プロセス・デバイス・基盤技術開発:有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池の構造作製法において、大面積化と膜構造制御の両方に利点を持つ静電スプレー堆積(ESD)法を研究。p型およびn型有機半導体やその水性コロイドインクを材料として積層デバイスを試作・評価、大面積で平坦・均一な薄膜作製の塗布条件を検討している。

◇光配向ホログラムの高速書込みと保持を両立する単分散ナノ粒子:サイネージ等の表示素子に向けたホログラム研究を行なっている。光配向によって屈折率が変化するアゾベンゼン誘導体を微粒子化し、高分子バインダに分散する事でホログラム材料を作製、高速応答を維持したまま保持機能を飛躍的に向上させた。

◇g-C3N4薄膜化技術-高機能メタルフリー光触媒の開発:g-C3N4(Graphitic Carbon Nitride)は地球上に豊富に存在する水素、炭素、窒素のユビキタス元素から成るメタルフリー光触媒で、水の分解や有機物除去、センサー特性を有する。溶けない粉末であるために、これまではシート配向が制御できなかったが、グアニジン炭酸塩を用いた蒸着重合法によって、シートが基板に対し並行に配向した薄膜の開発に成功した。

 

情報通信研究機構【情報通信研究機構】
◇有機電気光学ポリマーとシリコンを融合した超小型・高性能電気光学変調器:シリコン1次元フォトニック結晶と有機電気光学ポリマーとのハイブリッド構造を実現する事で、従来のLN変調器に比べ1000分の1の素子サイズと変調効率10倍の素子性能を達成した。シリコンチップ内の電気配線を光配線に置き換え、高性能コンピュータの高速・低消費電力化や巨大化する情報通信システムの小型・高速化・少エネ化に貢献する。

◇半導体量子ドットを用いた1.55μm帯光増幅器:分子線エピタキシ装置を用いて半導体ナノ構造の形成法を高精度で制御。超高密度量子ドット形成技術で温度依存性の小さい低消費電力レーザを実現するとともに、量子ドット半導体光増幅器作製技術によってコンパクトで広帯域な光増幅を実現した。

◇光取り出し効率の向上による深紫外LEDの高効率化、高パワー化と実用化開発:殺菌、浄水、医療、各種センシング、分析、光リソグラフィ、環境汚染物質の分解など、幅広い分野での活用が期待される200~300nmの深紫外LEDの高効率化や長寿命化、小型化といった実用レベルの開発を目指している。ナノインプリント技術を用いたナノ光構造によって高効率化を実現して、光取り出し効率1.9倍を達成した。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です