ドローンの高機能化を支える光技術

 様々な分野で活躍が期待されているドローン。この4月後半、幕張メッセで開催された第2回国際ドローン展でも多種多様のドローンが展示されていましたが、ドローン用のレーザーレーダーや高機能センサーといった光デバイスや、はたまたこんな使い方もあるのかといったものなど、ちょっと面白いものを幾つか見かけたので紹介したいと思います。

NTT東日本◆NTT東日本では、設備資材や災害復旧用物資などの運搬に用いるドローンを試作しました。確かにこういう使い方もありますよね。ケーブルドラムを運搬して直接通信ケーブルを敷設するのに使うそうです。
 最大積載量は20kgで、メタルケーブル200m(1ドラム分:約9kg)や光ケーブル500m(1ドラム分:約10kg)を運搬します。2枚一組のローターを4機備え、ボディーは直径30mmのカーボンフレームで出来ています。

自律制御システム研究所◆自律制御システム研究所のmini surveyorは、自らが考えて飛行する(自律飛行)ドローンです。レーザーセンサーやカメラセンサー、GPSなどのセンサー情報を複合させ、独自のアルゴリズムで位置・速度を求めて飛行制御に用いているので、橋梁の下など、GPSが利用できない環境でも安定な自律飛行ができるということです。撮影にはレーザーセンサーを用いたレーザーオートフォーカスを採用しています。撮影対象までの距離がすぐに分かるので、画像の位相差やコントラストを用いた一般のデジタルカメラのオートフォーカスに比べ、周りの明かりが暗い時でもピント合わせの精度が落ちることなく、素早く焦点を合わせることができるそうです。

NEC◆NECが研究開発中なのが可視光通信を用いたドローン固体識別システム。LEDタグを搭載したドローンとの可視光通信によって不正なドローンを識別して、イベントでの安全・安心をサポートします。複数のドローンが飛び交う環境でも、モニターには識別された不正ドローンが視覚的に分かるよう表示されます。可視光通信は、電波干渉を受けにくく、セキュリティー上無線通信が使えないような環境でも使用することができます。電波法の規制を受けないので設置が容易というのもメリットに挙げられます。

コーンズテクノロジー◆コーンズテクノロジーが取り扱うFLIR Systemsの赤外線カメラは、リーズナブルな価格で、かつ小型・軽量なのでドローン搭載に適しているとのことです。対応のmini-USBケーブルを接続するだけで電源がオン、アナログビデオ出力ができます。非冷却式VOxマイクロボロメーターを採用していて、解像度は640×512ピクセルと336×256ピクセルの2種類、スペクトル幅は7.5~13.5μm、フルフレームレートは30Hz(NTSC)と25Hz(PAL)で、寸法は2.26×1.75インチ、重量は90~115gというスペックになっています。
 

北陽電機◆北陽電機が参考出品したドローン用測域センサー、Smart-URGは二つのミラーユニットが付いているのが特長。このミラーで水平・垂直を同時にスキャンします。波長905nmの半導体レーザーを用いていて、垂直方向を十字にスキャンして地面までの距離を測ります。スキャン角度は水平方向が190度、垂直方向30度、計測距離は15m(暫定値)で、測定精度は±4cmとなっています。190g以下という軽量化も実現しました。寸法はミラーを含めて156×70mm。水平方向にある障害物との衝突防止や着陸時に地面と衝突するのを防いでドローンを守ってくれます。

アルゴ◆アルゴの全方位レーザー・イメージングユニット、Velodyne LiDARは波長903nmの16個のレーザー送受信センサーを内臓しており、水平方向360度、垂直方向30度の3Dイメージングを可能にしました。1秒間に30万ポイントを測定でき、測定精度は約±3cm、測定距離は100mまで対応します。ヘッド寸法は103.3×71.7mm、重量は標準で830g、軽量版で590gとなっています。ドローンの他、自動車やロボットなどにも搭載でき、三次元マッピング用途に屋内外で使用できるとのことです。

◆写真は取れなかったのですが、ジェピコはQuanergy Systemsの3D LiDARセンサーを出展しました。波長905nmの8個のレーザー送受信センサーを搭載していて、水平方向360度、垂直方向20度、測定精度は3cm以下、測定距離は150mまでで寸法は102×86mm、重量900gというスペックになっています。

 ドローンは飛行性能ももちろん重要ですが、何を載せるかでその用途はさらに拡大して行くはずです。その意味で、光技術を用いたデバイスは非常に重要な意味合いを持っていて、いわばドローン普及・発展の縁の下の力持ちの役割を担っていると言えそうです。

編集顧問:川尻多加志

 

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Japan Prize授賞式、天皇皇后両陛下をお迎えして開催される ‐受賞者は細野秀雄博士とスティーブン・タンクスリー博士‐

 Japan Prize(日本国際賞)は、世界の科学技術分野で独創的な成果を上げ、人類の平和と繁栄に貢献する著しい業績をあげた科学者に授与されるものです。科学技術の全分野を対象に、毎年二つの分野を授賞対象分野に指定して、科学技術の進歩に対する貢献のみならず、私達の暮らしに対する社会的な貢献も含めて選定されます。
 同賞はもともと、国際社会への恩返しとして全世界の科学者を対象にした国際的な賞の創設を打ち出した日本政府の構想に、松下電器産業の創業者・松下幸之助氏が寄付を持って応え1982年に実現したもの。記念すべき第1回授賞式は1985年に行なわれました。

そのJapan Prizeの2016年(第32回)授賞式が4月20日(水)、天皇皇后両陛下のご臨席のもと、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で盛大に行なわれました。
 今回の対象分野は「物質、材料、生産」と「生物生産、生命環境」の2分野。「物質、材料、生産」分野では、材料科学の新領域を次々と開拓して産業の発展に貢献した細野秀雄博士(日本)が、もう一方の「生物生産、生命環境」分野では、ゲノム解析により作物育種を「経験と勘」から「科学」に高め、食糧の安定生産に寄与したスティーブン・タンクスリー博士 (米国)が受賞しました。両氏にはそれぞれ賞状と賞牌、賞金5,000万円が贈られました。

細野博士

細野博士

 細野秀雄博士は1953年の生まれで、東京工業大学元素戦略研究センター長兼同大学応用セラミックス研究所の教授。ナノ構造を活用した画期的な無機電子機能物質・材料の創製の業績が認められ、今回の受賞となりました。

 ガラスのような「透明な酸化物」は電気を通さないため、これまでは電子機能材料には不向きとされていました。これに対し細野博士は、そのナノ構造を研究することによって「透明アモルファス酸化物半導体」を開発。これは現在、液晶や有機ELディスプレイなどに幅広く用いられています。博士はさらに、超伝導物質にはならないとされていた鉄系化合物で高い超伝導転移温度も達成、典型的な絶縁体と考えられてきた物質のナノ構造を改変することによって「電気を通すセメント」を開発するなど、画期的な無機電子機能物質・材料を次々と生み出してきました。

タンクスリー博士

タンクスリー博士

 スティーブン・タンクスリー博士は1954年生まれで、コーネル大学の名誉教授です。ゲノム解析手法の開発を通じた近代作物育種への貢献が認められました。

 これまで経験と勘と偶然に頼ってきた農作物の品種改良は、ゲノム解析技術の進展によって急速に進歩しましたが、タンクスリー博士は、ゲノム解析により作物の染色体地図を作成、その後、果実の大きさなど農業の生産性に関連した遺伝子を同定するなど、品種改良に役立つゲノム解析手法を開発しました。博士の研究がもたらしたゲノム情報と育種技術の融合は、優れた形質を持つ作物の選択精度を高め、求められる作物の計画的育種と費やされる時間の短縮に大きく貢献しました。
 
 
 

受賞者を祝福される天皇皇后両陛下

受賞者を祝福される天皇皇后両陛下

 今回の式典は、天皇皇后両陛下ご臨席のもと、各界を代表する方々や学界、財界などの関係者ら約1,000名が出席しました。授賞式の後には東京藝術大学シンフォニー・オーケストラによる記念演奏会が催されましたが、演奏された曲は両博士のリクエストだったそうです。また、翌日夕刻からは東京工業大学蔵前会館(東京都目黒区大岡山)で、一般の人を対象にした両博士の受賞記念講演会も開かれました。
 
 なお、来年の受賞対象分野は「物理、化学、工学」領域からは「エレクトロニクス、情報、通信」分野が、「生命、農学、医学」領域からは「生命科学」分野が選ばれています。フォトニクス分野の研究者のさらなる受賞を期待したいところです。

編集顧問:川尻多加志

 

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ナノ量子情報エレクトロニクスによるイノベーションに期待

 平成18年度から進められてきた文部科学省・先端融合領域イノベーション創出拠点の形成プログラム「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」が今年度で終了します。
 2月29日(月)と3月1日(火)の両日、研究開発を推進して来た東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構が、東京大学の本郷・伊藤謝恩ホールにおいてプロジェクトの成果報告シンポジウムを開催、10年間にわたる研究成果を披露しました。

 このプロジェクトは、将来のグリーンで安全なユビキタス情報社会の実現に向けて、超ブロードバンド、超安全性、超低消費電力を備えた情報システム基盤技術確立に立ち向かうことを目標に、産業界と協働して量子ドットを中心としたナノ技術、量子科学、ITの先端領域の融合を図ることで不連続的な技術革新を成し遂げ、イノベーションの創出を図ることをミッションとしています。
 海外を含めた東大以外の研究者とも強い連携を図り、内外に開かれた世界拠点の形成を目標とし、協働企業としては発足当初からシャープ、日本電気、日立製作所、富士通研究所が参画、21年度からはQDレーザも加わり、イノベーション創出のための体制が構築されました。

 研究推進母体の研究機構は、研究部門として(1)次世代ナノエレクトロニクス研究開発(2)量子情報エレクトロニクス研究開発(3)ナノ量子エレクトロニクス基盤技術研究の3部門を有し、四つの東大企業ラボ(シャープ、日本電気、日立製作所、富士通研究所)も設置、国際連携についてはスタンフォード大学、ミュンヘン工科大学、ケンブリッジ大学との融合研究も進められました。

五神真総長

五神真総長

 初日のオープニングセッション冒頭、拠点総括責任者である五神真東京大学総長が挨拶に立ち、プロジェクト10年間の取り組みと成果の概要を紹介するとともに「本機構は来年度以降も産学官連携の拠点として引き続き活動を推進する」として、昨年10月に発表した『東京大学ビジョン2020』実現に向け「今後とも研究機構の活動に対し温かいご支援を」と述べました。

 続いて登壇した来賓、寺崎智宏文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課企画官は「先端融合プログラムは行政にとってもチャレンジングなプログラムだった。世界と闘い続けた10年のその次のステージでの戦いが始まっている。今後とも独創的な成果が継続的に創出されることを期待するとともに、産業界が一丸となって拠点の成果をもとに世界に挑んでほしい」と挨拶をしました。

荒川泰彦機構長

荒川泰彦機構長

 オープニングセッション最後は、統括担当の荒川泰彦機構長による「産学官連携によるイノベーションの創出~成果と今後の展望~」と題する総括講演。
 先端融合プログラム発足前夜の我が国における科学技術プロジェクトの状況や研究拠点設立からこれまでの経緯、組織構成や活動の紹介、研究開発成果である量子ドットレーザーを用いたレーザーアイウェア(レーザー網膜操作型ウェアラブルグラス)や光インターコネクション、ナノワイヤ単一光子源を用いた量子暗号通信、量子ドット太陽電池、量子ドット光センサ等の紹介を行ないました。
 荒川機構長は拠点の今後の展開について「機構は引き続き活動を行なっていく。AIやIoTの台頭によって、これまでは下支えであったITが社会の革新を担うという雰囲気が出てきている中、ナノ量子情報エレクトロニクス融合によるイノベーションに期待したい。これは終わりではなく、次の始まりだ」と述べていました。

江崎玲於奈理事長

江崎玲於奈理事長

 夕刻にはシンポジウムの目玉、特別セッションも行なわれました。1本目がノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈茨城県科学技術振興財団理事長によるスピーチです。
 江崎理事長は「将来は現在の延長線上にない」と述べるとともに、研究者の想像力喚起を促す原動力として(1)競争的環境の中で行なわれる研究成果を的確に公表し、そこで受ける厳しい評価、忌憚の無い鋭い批判を真摯に受け止め研究の更なる発展に資する(2)創造の触媒となる他者との活発な知的交流(3)伝統から抜け出し、自由で境界を無視する大胆さ。虚心坦懐(candor)、先入観にとらわれることなく、研究対象のコアを捉え、限界に挑戦する意欲、の三つを挙げていました。

久間和生議員

久間和生議員

 特別セッション2本目は、久間和生内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員による「『第5期科学技術基本計画』の概要-超スマート社会の実現に向けて-」と題する特別講演。
 久間議員は、我が国の科学技術政策におけるプロジェクト推進に対する考え方の転換(プロデュサー制の採用)を解説するとともに、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の全体像と新しく追加されたテーマを披露。
 28年度からスタートする第5期科学技術基本計画については、これまで文部科学省が行なっていた策定を、初めて内閣府・イノベーション会議(SCTI)が行なったと紹介。さらに、求められる価値が「モノの性能、コスト、品質」から「システム・サービス」による価値へ変化しつつあることを捉え、基本計画の第2章「未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組」の中で、世界に先駆けた『超スマート社会(Society 5.0)の実現』を目標に掲げたと述べ、最後は「ナノ量子情報エレクトロニクスが『Society 5.0』の実現に貢献することを期待する」と締めくくりました。

 二日間にわたって行なわれた今回のシンポジウムでは、東京大学だけでなく、慶応義塾大学、京都大学、上智大学、東京工業大学、神戸大学などを含めた研究拠点メンバーが10年間にわたって進めてきた研究開発成果を報告。このほか上述の協働企業、シャープ、日本電気、日立製作所、富士通研究所、QDレーザの共同研究開発成果も紹介され、まさに我が国におけるナノ量子情報エレクトロニクス研究開発の最前線に触れることができた充実のシンポジウムでした。

 なお、ここでは発表メンバー全員を紹介できなかったので、詳しい情報については下記をご参照ください(京都大学は浅野卓先生が野田進先生の代理で講演されました)。

ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点
成果報告シンポジウム

http://www.nanoquine.iis.u-tokyo.ac.jp/finalreport/program.html

編集顧問:川尻多加志

 

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光加工・計測技術のインパクト

第31回櫻井健二郎氏記念賞受賞者 (前列左から)小林功郎記念賞委員長代理、平野正晃氏、佐藤俊一氏、小谷泰久専務理事 (後列左から)川口雄揮氏、田村欣章氏、山本義典氏、 軸谷直人氏、原坂和宏氏、伊藤彰浩氏

第31回櫻井健二郎氏記念賞受賞者
(前列左から)小林功郎記念賞委員長代理、平野正晃氏、佐藤俊一氏、小谷泰久専務理事
(後列左から)川口雄揮氏、田村欣章氏、山本義典氏、 軸谷直人氏、原坂和宏氏、伊藤彰浩氏

 我が国のもの作りを支える光加工技術にいま、3Dプリンターや精密微細加工技術を用いた新たな展望が拡がろうとしています。また、光計測技術の医療・健康、宇宙分野等への応用は新しいイノベーションを生み出すと各方面より注目が集まっています。

 そんな中、リーガロイヤルホテル東京で2月3日(水)に開かれた「光産業技術シンポジウム」(光産業技術振興協会と光電子融合基盤技術研究所の共催)。
今年のテーマはまさに「光加工・計測が創る新たな社会と産業イノベーション」で、太陽系外惑星検出、3Dプリンター、X線自由電子レーザー(XFEL)やパワーレーザーの超小型化といった光加工・計測技術の最新の情報と将来展望が紹介されるとともに、ICTの鍵を握る光電子集積技術に関しても、その最新動向と将来展望が紹介されました。当日のプログラムは以下の通りです。

◆開会挨拶:光産業技術振興協会 専務理事 小谷泰久氏
◆来賓挨拶:経済産業省商務情報政策局デバイス産業戦略室 室長 田中邦典氏

<基調講演>
太陽系外惑星直接検出のための技術開発
   室蘭工業大学 理事・副学長 馬場直志氏

<招待講演>
3Dプリンターとその最新動向
   アスペクト 代表取締役社長 早野誠治氏
超小型パワーレーザーの開発と産業への応用
   内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) プログラム・マネージャー 佐野雄二氏
光テクノロジーロードマップ~光加工・計測技術
   レーザー技術総合研究所 主席研究員 藤田雅之氏
光電子集積技術に関する開発動向及び技術ロードマップ2015
   新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 統括研究員 吉木政行氏

<講演>
超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発
 ~アクセスネットワーク向けシリコンフォトニクス

   光電子融合基盤技術研究所(PETRA) 佐々木浩紀氏

 以下、内容を簡単に紹介しますと「太陽系外惑星直接検出のための技術開発」を講演した室蘭工大の馬場氏は、地球型惑星の直接観測には地上においても宇宙空間においてもハイ・コントラストな撮像法が求められ、その実現には極限補償光学、広帯域・ハイスループット化、ハイパー望遠鏡の建設が重要と述べました。

 「3Dプリンターとその最新動向」を講演したアスペクトの早野氏は、Additive Manufacturing(AM)技術の応用、用途、装置の潮流、取り巻く環境と市場動向、日本の技術と政府の取り組みを解説。1990年に3,000社が登録されていた木型工業会のメンバーが2015年には74社になってしまったと指摘して、今後どう生き残るのかを考えるべきだと述べていました。

 「超小型パワーレーザーの開発と産業への応用」を講演したImPACTの佐野氏は、現行700mのXFELを10mにするという目標を掲げ、ベンチマークと開発目標の具体化、海外への広報戦略、将来展開を含めたロードマップの作成が今後の課題と指摘。超小型パワーレーザーにおいては、高出力パルスレーザーを日本に復活させるとして、ベンチャー設立を含め技術移管およびシステム化・製品化戦略とユーザーとの連携による応用発掘と実用化推進が重要と述べました。

 「光テクノロジーロードマップ~光加工・計測技術」を講演したレーザー総研の藤田氏は、2030年社会における光加工・計測、光医療の姿を想定した上で、その夢はいつでも・どこでも・何でも3Dプリンターと痛くない光診断・治療の実現と述べていました。

 「光電子集積技術に関する開発動向及び技術ロードマップ2015」を講演したNEDOの吉木氏は、2015年時点では光電子集積技術を搭載するアプリケーションはスパコンやデータセンター、サーバーのフロア間からラック間の光リンクの一部にしか用いられていないが、2030年にはその搭載範囲は飛躍的に拡大、市場の50%を占めるだろうと予想しました。

 「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発~アクセスネットワーク向けシリコンフォトニクス」を講演したPETRAの佐々木氏は、アクセスネットワークシリコンフォトニクスの中において、GE-PON ONU向け光トランシーバーの要素デバイス開発(双方向波長合分波フィルター、スポットサイズ変換器、Ge-PD、利得結合型DFB-LD)と集積トランシーバー開発を紹介、さらにTWDM-PON ONU向け光トランシーバーの要素デバイス開発として、双方向波長合分波フィルターと消光比25dBのAWGを紹介しました。

 シンポジウム終了後には恒例の櫻井健二郎氏記念賞表彰式が行なわれました。第31回を迎えた今回の櫻井健二郎氏記念賞は、リコーの「レーザプリンタ用面発光レーザアレイの開発および実用化」と住友電気工業の「海底ケーブル用極低損失光ファイバの開発と実用化」に贈られました。
 受賞者はリコーがリコー未来技術研究所の佐藤俊一氏(技師長)、軸谷直人氏(シニアスペシャリスト)、原坂和宏氏(スペシャリスト)、伊藤彰浩氏(シニアスタッフ)の4名。住友電気工業が平野正晃氏(光通信事業部主席)、山本義典氏(光通信研究所主査)、田村欣章氏(光通信研究所)、川口雄揮氏(光通信研究所)の4名です。それぞれに表彰状、メダル、副賞が授与されました。

 リコーは、レーザプリンタ用書込み光源の開発に取り組み、高利得のGaInPAs/AlGaInP 歪量子井戸構造活性層、AlAs主体の高熱伝導率反射鏡、安定なモード・偏光特性のための高次モード抑制フィルター、均一な素子特性のための面発光レーザ素子レイアウトなど、独創的技術の開発によって世界最高出力および高信頼の面発光レーザアレイの実現とその実用化に成功しました。この面発光レーザアレイは、プロダクションプリンタに搭載され、高速かつ4800dpiという世界最高の解像度を達成して新しい印刷市場を切り拓いたことが評価されました。
 一方の住友電気工業は、世界に先駆けて純シリカコアファイバを開発し、さらにそのレイリー散乱を低減することにより、伝送損失が最小0.149dB/km、平均0.154dB/km と、研究、製品それぞれのレベルで世界記録を更新。本技術により製品化された極低損失光ファイバは、複数の国際大洋横断光ファイバ通信プロジェクトに採用され、海底光通信システムの性能向上に大きく貢献したことが評価されました。

編集顧問:川尻多加志

 

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ナノテクノロジーは基盤技術・産業をめざす

 電子情報通信学会・システムナノ技術に関する時限研究専門委員会(委員長:大阪大学大学院工学研究科 高原淳一教授)主催による第3回研究会「将来社会を創るシステムナノ技術イノベーション」が1月26日(火)、産業技術総合研究所・臨海副都心センター別館で開催されました。

 同委員会は、その前身である次世代ナノ技術に関する時限研究専門委員会が一昨年設立10年を迎えたのを機に、グリーンイノベーションやライフイノベーションなどの国家戦略を踏まえ、出口に近い電子情報通信学会におけるナノテクノロジーの重要性はますます大きくなると名称を変更して活動を継続しているものです。ナノ技術とフォトニクスをベースとして、従来概念に捕われず、技術を他分野へ融合するとともにシステム化への展開までを研究討論の対象として、イノベーションの芽を育むことを目的としています。

開会挨拶をする高原委員長

開会挨拶をする高原委員長

 今回の研究会では、将来必ず基盤技術、基盤産業になるであろうナノテクノロジーにスポットを当て、ナノ計測、ナノ材料、ナノフォトニクス、ナノ製造に代表される基盤技術から、それらを用いた情報通信、燃料電池、医療への展開に関するホットなテーマが取り上げられました。

 講演は、高原委員長の開会挨拶でスタート、その後に燃料電池、ミニマルファブ、多探針SPM、カーボンナノチューブ、量子人工脳、印刷フレキシブルエレクトロニクス、ナノバイオテクノロジーといった今注目の最先端テクノロジーをテーマにした招待講演7本が行なわれました。

講演題目と講演者は以下の通りです。

◆燃料電池と将来エネルギー社会の展望:岩澤康裕氏(電通大)
◆ミニマルファブによる革新的な半導体製造:原史朗氏(産総研)
◆多探針SPM/ナノ計測からナノシステム操作への転換:中山知信氏(物材研)
◆カーボンナノチューブ実用化展望:片浦弘道氏(産総研)
◆量子人工脳の原理と応用:山本喜久氏(ImPACT)
◆印刷によるフレキシブルエレクトロニクスとその応用展望:鎌田俊英氏(産総研)
◆ナノバイオテクノロジーが先導する診断・治療イノベーション:片岡一則氏(東大)

 各分野を先導するプロジェクトリーダーが最先端の研究を披露した今回の講演。その幾つかを簡単に紹介します。

◆燃料電池と将来エネルギー社会の展望:岩澤康裕氏(電通大)
 燃料電池の産業化は進んでいるものの、依然として燃料電池触媒の構造、機能、触媒作用の本質はブラックボックスのまま。ウェット燃料電池触媒の作用はダイナミックなため、燃料電池作動下(泳いで生きている魚)を評価・解析することが重要であり、取り出して干物になった魚を分析しても本当のことは分からないとのことです。その唯一の解決策がX線吸収微細構造(XAFS)法であり、SPring8にXAFS新ビームラインを建設、そこから生み出された成果が紹介されました。水素市場は2050年、8兆円に達すると言われています。

◆ミニマルファブによる革新的な半導体製造:原史朗氏(産総研)
 成熟期を迎えても依然として巨大投資を続けざるを得ず、赤字を垂れ流している半導体産業。そこでの日本は負け組みであり、それゆえ5,000億円の投資が5億円で済むミニマルファブこそ日本の半導体産業の進むべき道で、クリーンルームの要らないミニマルファブを作れるのは日本だけと強調、完成したミニマル装置が紹介されました。昨年12月に開催された「セミコンジャパン2015」では、クリーンルームではない展示会場において工場の立ち上げを半日で行ない、CMOSとリングオシレーターを作り来場者を驚かせたそうです。その他の成果も紹介するとともに、ファブシステム研究会とミニマルファブ技術研究組合への参画を勧めました。

◆カーボンナノチューブ実用化展望:片浦弘道氏(産総研)
 単層カーボンナノチューブが、どうすれば半導体集積回路などに応用できる半導体型と、ナノ配線などに応用できる金属型の相反する性質になるのかを解説。電子デバイス材料応用では半導体型が必要ですが、半導体型と金属型を得るための構造制御方法には分離法と選択成長があって、講演では各種分離法の最新成果を紹介。産総研のゲル・カラム・クロマトグラフィー法では1日で10gの分離製造が可能とのことです(ちなみに市販品の価格は1mg当り数万円)。応用として熱電素子や生体イメージング用造影剤、近赤外吸収材料を用いたレーザーなどにも言及。残された課題はマクロスケールの配光制御で、そのためには単一構造の高純度半導体配向膜が必要とのことです。

◆ナノバイオテクノロジーが先導する診断・治療イノベーション:片岡一則氏(東大)
 日本人の死因の第1位はがん。現在の方法で治療が困難なものとしては転移がん、薬剤の到達効率が低いがん、薬剤耐性がん、がん幹細胞の4種類が挙げられます。講演では外側が親水性物質、内側が疎水性物質で構成される高分子ミセルによるがん治療研究が紹介されました。高分子ミセルは、外側が親水性ゆえ拒否反応がありません。がんの血管にできる穴は正常の血管の穴よりも大きいという性質がありますが、抗がん剤を内包した高分子ミセルの大きさは50nm、がんの血管の穴の大きさは100nm、高分子ミセルはその穴を通ってがん細胞だけに取り込まれ、そこで抗がん剤を出してがん細胞を死滅させます。

 高原委員長は開会挨拶で、IoTやサイバーフィジカルシステムが注目されるなか、ナノテクノロジーのシステム化は時宜を得たものだと述べていました。また、来年度からは電子情報通信学会のエレクトロニクスソサイエティの体制が少し変わって、これまでの専門委員会を引継ぐ形で、新たに領域委員会と技術横断的な横串委員会が作られるそうです。高原委員長は、その意味でも広く技術をカバーするシステムナノ技術に関する委員会の存在意義が重要になって行くと述べていました。

 研究会は一色秀夫副委員長(電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授)の閉会挨拶で終了しましたが、別会場では今回の研究会を協賛した複数企業の製品・技術が昼食や休憩時に展示披露され、講演会終了後に開かれた交流会では、講演者を交えて参加者による活発な議論が交わされていました。

 とかく先端技術はその研究が進展すればするほど、どうしても縦割りに細分化してしまう傾向があります。その結果、研究の萌芽的段階においては、包括的研究コミュニティーが存在し、そこにいることで見えていた自身の研究領域に隣接する他分野の研究が次第に見えにくくなってしまいます。そうなれば研究は縦に進化はするものの、まったく新しい横の発想は得にくくなってしまいます。
 その意味で今回のような横断的テーマを同時に聴講できる研究会は、各研究者が普段では得られない新鮮な刺激を得ることができるでしょうし、かつ自身の研究のコペルニクス的転回を生み出すためのヒントに出会える場所でもあったと言えるでしょう。

 同委員会は、今後も異分野融合による新たな機能発現の探索、新規デバイスの概念創出に止まらず、それらのシステム化によって21世紀の核となるイノベーションの芽を育むことを目的に、研究情報の提供や意見交換、討論を行なう計画。委員会の詳細は以下を参照してください。

システムナノ技術に関する時限研究専門委員会(SNT)

編集顧問:川尻多加志

 

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今年もやっぱり光年!

 日本フォトニクス協議会(JPC)の新春特別フォーラムが1月15日の金曜日、東京は神楽坂の東京理科大学・森戸記念館で開催されました。
 JPCは、様々な光分野における有識者・研究者・技術者と光関連機関・団体に関係する人々が連帯・連携して、光技術に関するアイデアやノウハウ、教育システム、生産技術、デバイス技術を結集させ光技術に携わる人材育成を行うとともに、新たな光技術と光ビジネスを創成、国際間の学術交流の活性化にも貢献して、我が国先端技術による産業・企業・教育の普及・発展に寄与するため設立された特定非営利活動法人。

羽鳥JPC理事長

羽鳥JPC理事長

 傘下に産業用LED応用研究会や紫外線研究会、関西支部のJPC関西などを持ち、これまでにも光ビジネスや技術動向に関する定例セミナーなどを開催してきました。

 主催者によれば、今回の講演会には約80名、その後の賀詞交歓会には約100名が出席。先ずJPC理事長の羽鳥光俊氏が開会の挨拶(年頭の辞)を行ない、引き続きお三方による招待講演が行なわれました。

伊賀東工大前学長

伊賀東工大前学長

 トップバッターは、東京工業大学・前学長の伊賀健一氏。 「面発光レーザーフォトニクスの新展開」と題する講演の中で、世界で初めてレーザー発振を成功させたメイマン氏について、連続発振ではなくパルスで発振させたことは固定概念を打破したもので、イノベーターであると評価。
 面発光レーザーの研究の歴史や応用展開を紹介しつつ、ご自身が如何にして面発光レーザーを着想したかについては「将来どういうものがあったら良いか」を念頭に置いたとのこと。講演最後には、科学の役割として「発見・解明」、「創造から生産へ」、「安らかな社会を実現させる」の三つが大切と締め括りました。

 続いての講演は、東京大学・教授の合田圭介氏による「先端光技術によるセレンディピティの計画的創出」。ご自身がプロジェクトマネージャーを務める革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」を紹介しました。
 「セレンディピティ」とは、偶然の幸運や予知しないものを発見する能力のこと。1兆個以上の多種多様な細胞群から、圧倒的性能を有する稀少細胞を超高速・超正確に探索する技術を開発して、体内に油脂を作る能力が現在の20倍というスーパーミドリムシを創ったり、超高精度な血液検査技術を実現するとのことです。まさに、大発見を偶然のものから必然のものにするというものです。
 光学撮影における感度と速度を両立させたSTEAM(連続時間符号化振幅顕微鏡法)カメラを開発、世界最速の連続撮影が可能な超高速自動顕微鏡の実現に成功しました。会田氏は「イノベーションという言葉はもはや死語。これからはセレンディピティの時代だ」と強調していました。

 招待講演最後の産経新聞東京本社・編集局編集長の島田耕氏は「日本経済の2016年を占う」と題する講演の中で、個人的見解と断りながらも、今年の日本経済は非常に厳しいものになるだろうと予測。日本経済はアベノミクスによって上昇基調にあるものの、中国経済の低迷などの外的要因に振り回される懸念があるとのことです。
 また、鍵を握る個人消費が伸びていないとも指摘。アベノミクスの想定外としては、輸出が思ったほど伸びない、昨年4月の消費増税が予想以上に消費に悪影響を与えた、賃上げが大企業以外へ波及するのに時間がかかっているとの3点を挙げました。島田氏は最後に、日本には金融工学による錬金術を使うような国ではなく科学技術立国、製造業立国になってほしいと述べていました。

 招待講演終了後は、光産業関連団体代表による年頭スピーチが続きます。

 光産業技術振興協会・専務理事の小谷泰久氏は、私見と断りながらも光産業も勝ち組と負け組みに分かれるのではないかと述べ、レーザー加工やイメージセンサーなどの他、太陽光発電分野ではパネルではなくシステム、LED照明分野でも素子ではなく器具等を勝ち組に挙げていました。
 また、新しくスタートした、データセンター内のフォトニックスイッチングに関する「次世代フォトニックススイッチングノード技術の調査研究」と、サーバーにおける光エレクトロニクス実装技術に関するNEDOの実用化10年プロジェクト「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」を紹介、このプロジェクトの途中でも(できれば今年にでも)製品化に持って行きたいと述べていました。

 日本光学会・会長の黒田和男氏は、今後X線やバイオまで領域を拡げて会員を増やして行きたいと述べ、昨年の国際光年に関連して、実は今年がフレネルが回折現象を明らかにしてから200年、アインシュタインの誘導放出理論の発表から100年に当たるとして、今年も光年であると述べていました。

 レーザー学会・会長の加藤義章氏は、産業界と連携をより強くするとともに、女性会員を増やしたいと抱負を述べました。さらに、日本の研究は良い成果を出しているにも関わらず、必ずしも国際的に認知されていないと指摘、その向上のためにも今年5月にパシフィコ横浜で開催される国際学会OPICを海外との連携媒体として成功させたいとしていました。

 最後に登壇したJPC関西・支部運営副委員長の豊田周平氏は、これまでの関西支部の活動を紹介しつつ、昨年10月に発足させた新しい分科会「アグリバイオフォトニクス産業化研究会」の概要も紹介しました。

天野名大教授

天野名大教授

 この後、会場を移して行なわれた賀詞交換会のハイライトは、何といっても2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学・教授の天野浩氏(JPC理事)が、特別ゲストとして超多忙の中駆けつけ挨拶をされたということでしょう。JPCから記念品が贈呈されました。

 この他にも、招待講演者を代表して伊賀健一氏、板橋区産業経済部長の細井榮一氏、メディカルイメージングコンソーシアム副理事長の谷岡健吉氏、光学薄膜研究会・代表の室谷裕志氏、可視光半導体レーザー応用コンソーシアム代表の山本和久氏、JPC理事の森戸祐幸氏、経済産業省・製造産業局・産業機械課長の佐脇紀代志氏、JPC産業用LED応用研究会委員長代行の本田徹氏などが登壇、今年にかける夢と抱負を述べ、約2時間という時はあっという間に過ぎて行きました。

編集顧問:川尻多加志

 

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今年を国際光元年に!

会場風景 12月11日の金曜日、東京大学・安田講堂において「国際光年総括シンポジウム-光の科学と技術の新たな飛翔に向けて-」が開催されました。

 イブン・アル・ハイサムの光学研究から1,000年、マクスウェルの光電磁波説から150年、アインシュタインの一般相対性理論から100年、そしてカオの光ファイバ提唱から50年と、今年は光にとって節目となる重要な年でした。そこで、国連は2015年を国際光年(光と光技術の国際年)と定め、これに合わせた様々なイベントが世界各国で開催されました。
 我が国においても4月、同じ東大・安田講堂において1,100人以上が参加して国際光年記念式典が開かれましたが、この他にも各学会を始めとして多くのイベントが行なわれました。

 今回のシンポジウムは、日本学術会議総合工学委員会ICO分科会の主催、国際光年協議会、国立研究開発法人・科学技術振興機構の共催で行なわれたもので、2015年の終了に当たって国際光年の総括と今後の活動を展望するとともに、光の夢と魅力を改めて市民に広く伝えることを目的に開かれました。事前登録は1,300人弱にも及んだとの事です。

荒川東大教授 シンポジウムは先ず、ICO会長で東京大学の荒川泰彦教授の開会挨拶で幕を開け、日本学術会議会長で豊橋技術科学大学の大西隆学長が、日本学術会議を代表して挨拶を述べました。
 続いて行なわれたのが各学会の報告。応用物理学会の河田聡会長、電子情報通信学会の小柴正則会長、日本物理学会の藤井保彦会長、レーザー学会の加藤義章会長、日本光学会の黒田和男会長等、我が国を代表する光関連主要学会の会長がその取り組みについて報告、最後はSPIEの谷田貝豊彦会長が活動報告を行ないました。谷田貝会長はその中で「ユネスコの中で最も成功したイベントであった」というユネスコ技術部門の担当者の声を紹介していました。

赤﨑名大特別教授 その後、休憩を挟んで行なわれたのが三本の記念講演。先ずは昨年ノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学特別教授、名城大学終身教授の赤﨑勇氏が特別記念講演として「光と私の研究」を、続く記念講演は建築家で東京大学名誉教授の安藤忠雄氏が「光と建築」、東京大学教授の村山斉氏が「光と宇宙」と題する講演を行ないました。

 赤崎特別教授は、GaNを用いた青色発光素子の研究を振り返って、鍵は結晶成長と確信したと述べるとともに、研究は「How」より「What」が大事だと述べていました。また、通産省の未踏革新技術プロジェクトにご自身のテーマが採用された時は、NECの林巌雄氏が提案していたSHG素子を用いた方式も同時に採用された事を紹介。この二つのテーマを採用したのは田中昭二氏と櫻井健二郎氏で、両氏は二つとも非常に難しいが重要な研究であり、どちらかでも成功すれば、という思いだったらしいという裏話を紹介しました。

 一方、安藤氏はユーモアを交え、ご自身のこれまでの仕事を紹介するとともに「日本は創造的国家にならなくてはいけない。それにはもっと教育に力を入れるべきである。学生は全力で体験をすべきで、もっと好奇心を持つ必要がある」と力説。村山氏は、宇宙の成り立ちや宇宙が何で出来ているのかを非常に分かりやすく説明して、光を使って宇宙を調べれば「行かなくても宇宙を研究できる」と述べていました。

 そして、シンポジウムの最後は日本学術会議第三部長で東京大学副学長・教授の相原博昭氏が閉会の挨拶を行なって、今回のイベントを締め括りました。

 国際光年の国内イベントはこれで終了というかたちになりますが、来年2月にはメキシコにおいてクロージングセレモニーが行なわれます。開会挨拶で荒川教授が述べていたように、これで国際光年は終わりというのではなく、2015年を「国際光元年」として、今後ますます発展させて行かなければならないと感じた一日でした。

 最後になりましたが、本年中は大変お世話になりました。来年もよろしくお願い申し上げます。皆様、良いお年を!

編集顧問:川尻多加志

 

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8Kは優位なのか?

 10月7日(水)から10日(土)まで幕張メッセで開かれた「CEATEC JAPAN 2015」。今年の開催期間は、昨年より1日短い4日間だった。そのせいもあってか、登録来場者数は昨年の15,0912人から133,048人に減少した。
 東芝、ソニー、日立製作所など、これまで常連であった大手電機メーカーが出展を取り止めるなか、「CEATEC JAPAN」自体が曲がり角に来ていると評する向きもあるが、分社化が取り沙汰されているシャープは8K映像モニターなどを展示して、その技術力をアピールしていた。その他、目に付いた幾つかの展示を紹介する。

写真1 シャープのIGZO液晶パネルを用いた85型8K映像モニター。7,680×4,320画素、120Hz、12bit表示、最大輝度1,000cd/m2、コントラスト比100,000:1を実現した。新蛍光体を採用した独自のLEDバックライトシステムの搭載で、次世代色規格BT.2020のカバー率78%も達成している。この他、同社は4K液晶パネルの3原色のサブピクセルに黄色を加えることで色表現力を高め、さらに超解像技術を融合させ8K解像度を実現した「4K NEXT」も出展。これは8Kよりも買いやすい価格設定を狙ったものだ。どちらも近日発売予定。シースルーディスプレイやミラーディスプレイも多くの人の注目を集めていた。

写真2 世界初、次世代ディスク規格「Ultra HDブルーレイ」再生に対応したパナソニックのプレミアムディーガ。
「Ultra HDブルーレイ」は4K(3,840×2,160画素)映像を1秒間に60コマで高速表示でき、輝度ピークを従来の100nitから最大1,000~10,000nitまで拡大した高輝度HDR(ハイダイナミックレンジ)に対応、次世代色規格BT.2020にも対応するものだ。高効率動画圧縮技術HEVC(H.265)による最大100Mbpsの映像信号にも対応している。11月初旬発売予定だ。
 

写真3 QDレーザのレーザアイウェアは弱視の人の視覚支援機器として、来年3月の商品化を予定している。カメラから得た映像をRGBレーザービームで照射、それをMEMSミラーと反射ミラーを経由して直接網膜に投影するという仕組み。視力やピント位置に依存しないフォーカスフリー特性を活かしたものとなっている。同社では医療検査や作業支援用、さらにはスマートグラスとして順次商品化をして市場開発したいとしている。
 
 
 
写真4 JINSのアイウエアは「自分を見る」をコンセプトに開発されたセンシング・アイウエア。メガネとしての形状と機能はそのままに、独自開発の三点式眼電位センサーで八方向の視線移動とまばたきをリアルタイムでセンシング、六軸(加速度・角速度)センサーで体軸・体幹・歩行バランス・活動量を測定して、眠気や集中度、身体のバランスなど、生体データを取得できる。医療から行動分析まで、幅広い研究へ活用できる可能性を持つ。
 
写真5 アスカネットはAI(エアリアル・イメージング)プレートを用いた空中ディスプレイを出展。JTBプランニングネットワークのコンテンツ、船井電機のセンサー、メディアタージのアプリを用いて、1×1mの大型AIプレートで迫力ある空中結像とインタラクティブ操作をデモンストレーションした。同社のブースでは、インテルやNECソリューションイノベータ、NHKメディアテクノロジー、東京大学・篠田研究グループなどがAIプレートの応用事例も展示していた。
  
写真6 中国のBOEは、98型と110型の8K液晶ディスプレイを出展した。輝度は500cd、コントラスト比は1,000対1とのことだ。82型の10K液晶ディスプレイも出展していたが、こちらはアスペクト比を21:9にして10Kを実現している。

 かつて、我が国の液晶テレビは新興国の追い上げによって世界市場を奪われていった。今回出展されたBOEの8Kディスプレイを見ていると、デジタル技術の恐ろしさか、日本製にスペックの優位性はあると思われるが、8K製品もうかうかしていられないという感じを受ける。BOEのディスプレイは、今回のCEATECライフスタイル・イノベーション部門のグランプリを受賞しているのだ。「技術で勝って、ビジネスで負ける」と言われて久しいが、その原因はどこにあるのだろう。

 次回の「CEATEC JAPAN 2016」は、2016年10月5日(水)から10月8日(土)の4日間、幕張メッセで開催される。

編集顧問:川尻多加志

 

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表示技術の進展に期待される大学の研究

8月27日(木)と28日(金)の両日、東京ビッグサイトにおいて「イノベーション・ジャパン2015」が開催されました。
この展示会は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のビジネスマッチング・ゾーンとJST(科学技術振興機構)の大学見本市ゾーンの二つに分かれていて、ビジネスマッチング・ゾーンではNEDOが支援する中小・ベンチャー企業および研究者の100の開発・研究成果が、大学見本市ゾーンでは国内外の大学等162機関から401に及ぶ研究成果が展示されました。今回は大学見本市ゾーンの中から、表示技術に関連する研究成果をいくつか紹介します。

MEMSマイクロミラーと「健康グラス」(東北大学大学院工学研究科・羽根一博教授、佐々木敬助教)

MEMSマイクロミラーと「健康グラス」(東北大学大学院工学研究科・羽根一博教授、佐々木敬助教)

目の病気は、患者が違和感を感じたり、定期健診によって発見されることが多く、一般的に早期発見が難しいと言われています。
MEMS走査マイクロミラーを用いた眼鏡型ウェアラブルデバイス「健康グラス」は、眼鏡のように装着して目の網膜に光を直接形成するヘッドアップディスプレイで映画などを見つつ、その光学系を利用して網膜および目の表面からの反射光を同時に測定することで日常的に網膜情報をさりげなく取得、それによって目の病気の早期発見も行なおうというものです。 
 

敷くだけで片側通行を実現する完全無電源の歩行誘導シート(大阪大学大学院情報科学研究科・古川正紘助教、電気通信大学・梶本裕之准教授、野嶋琢也准教授)

敷くだけで片側通行を実現する完全無電源の歩行誘導シート(大阪大学大学院情報科学研究科・古川正紘助教、電気通信大学・梶本裕之准教授、野嶋琢也准教授)

  
通行量の多い駅の構内などでは、混雑予防のため片側通行しなければなりませんが、通行人に文字や矢印を読んでもらうという従来の方法では、直接の行動に結びつけることが中々難しいようです。本シートを使えば、歩行者は自然と片側に誘導されてしまいます。
人が視覚的な流れを手がかりにしながら安定した歩行を行なっていることに着目、レンチキュラシートを用い歩行者が前進すると足元に図柄が流れて見えることを利用して、歩行者の進行方向を誘導するという仕組みです。

新しい有機発光デバイス「LEC」(早稲田大学理工学術院・坂上知准教授)

新しい有機発光デバイス「LEC」(早稲田大学理工学術院・坂上知准教授)


 
 
LEC(Light-emitting Electrochemical Cells)は、発光層を電極で挟むだけで発光する有機デバイス。発光層は発光性ポリマーとイオン液体の混合膜だけという非常にシンプルな構造になっています。電気化学発光による発光方式に新たな技術を取り込み開発したとのことです。
真空設備やクリーンルームが不要なロール・トゥ・ロールやスプレー噴射などの低コストな製造方法で作ることが可能です。
照明やシースルーデバイス、フレキシブルシートなどへの応用が期待できます。

レーザーディスプレイのためのバックライト技術(立命館大学理工学部・藤枝一郎教授)

レーザーディスプレイのためのバックライト技術(立命館大学理工学部・藤枝一郎教授)


 
光ファイバを湾曲させて導光板内部に配置、光ファイバの曲率を調整して光ファイバから漏れ出る光量を設定して、複数の導光板を1本の光ファイバで連結すれば、スーパーハイビジョンで使うような大型の、かつ任意形状のバックライトを実現できます。光ファイバーを振動させてレーザーのスペックル雑音を低減、光ファイバと導光板の屈折率を整合させればシースルーにすることも可能とのこと。液晶パネルと反射板の間に挿入すれば、反射型または透過型の液晶ディスプレイとして機能するので、携帯ディスプレイの明暗所の両方での視認性を確保できます。
 

高演色性LEDデバイスのための新セラミックス蛍光体材料(豊橋技術科学大学大学院工学研究科・中野裕美教授、名古屋工業大学大学院工学研究科・福田功一郎教授)

高演色性LEDデバイスのための新セラミックス蛍光体材料(豊橋技術科学大学大学院工学研究科・中野裕美教授、名古屋工業大学大学院工学研究科・福田功一郎教授)

 白色LEDの演色性を向上させる400nmおよび青色励起蛍光体に係る新規材料技術で、Li-Ta-Ti-O系材料を母体とし、これに賦活剤を添加、同一母体材料でRGBY発光色の蛍光体を創成することができ、固相法や液相法での作製が可能です。液晶テレビやモニター等のバックライトだけでなく、センサーなど多様な用途への可能性も期待できるとのことです。

 
 
 
 
 
 
 
展示会では、表示技術だけでなく、多岐に渡る分野の研究が数多く展示発表されていました。これらの研究が企業との共同研究に進展して広く応用され、世の中のためになることを切に願います。

編集顧問:川尻多加志

 

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ポストFITの太陽光発電

DSC03499 6月23日(火)と24日(水)の両日、つくば国際会議場において「AIST太陽光発電研究成果報告会2015」が開催されました。
 国立研究開発法人となった産業技術総合研究所(産総研:AIST)は、この4月から第4期の中期計画期間に入り、これに伴い太陽光発電工学研究センター(2011年発足)は、名称を太陽光発電研究センターに変更しました。

 同センターでは、開発した技術の実用化や産業界への橋渡しをより一層意識して研究開発を行なうとともに、産総研独自の研究シーズの探索と育成、将来の我が国の太陽光発電を担う人材育成にも注力するとしています。また、福島再生可能エネルギー研究所(FREA)の再生可能エネルギー研究センターとの連携を強め、一体的に太陽光発電の研究開発を実施していく計画です。
 具体的な研究としては、我が国の太陽光発電ロードマップ(NEDO PV Challenges)のコスト目標である7円/kWhを実現するために、各種太陽電池の高性能化やモジュールの信頼性向上に取り組むとのこと。この他、太陽電池の評価・校正技術の高度化、故障解析、安全基準の策定等、共通基盤的技術開発を行なうとしています。
 新しく変わったセンターの研究で注目したいのは、半導体光電極や光触媒を用いた人工光合成技術に関する開発テーマが機能性材料チームに追加されたこと。さらに、有機系薄膜チームが話題のペロブスカイト太陽電池における新規材料の探索や塗布法による高効率・低コスト化に向けたプロセス開発に一層注力する点といったところでしょうか。

 初日の特別講演では、経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の松山泰浩課長が「再生可能エネルギーの導入拡大と今後の課題について」を、新エネルギー・産業技術総合開発機構新エネルギー部太陽光発電グループの山田宏之主任研究員が「太陽光発電開発戦略と新しいプロジェクトの概要」を報告、招待講演では、資源総合システムの一木修代表取締役が「新たなサイクルに入る太陽光発電-FITを乗り越えて-」を講演しました。
 成果報告では化合物薄膜太陽電池、有機系太陽電池、超高効率化技術、モジュール技術、評価技術、システム技術、人工光合成技術等に関する最新の研究開発事例が紹介されたほか、初日後半と二日目にかけ合計12本のトピックス講演が行なわれ、特別トピックス講演としては「産総研メガ・ソーラタウン全数調査の結果速報」が紹介されました。

 FITによる太陽光発電施設の急増による系統連携の問題や買い取り価格見直しによる導入量の減少が予想されるなか、ポストFITへの対応は重要な課題とされています。
 今回の報告の中では、FIT導入前の太陽光発電が持っていたエネルギー問題や環境問題を解決するという社会規範が、FIT導入によって金儲けのための経済規範に変質してしまい、その果てに何時か大きな事故が起きるのではないかとの警鐘も聞かれました。
 確かに、FITによって20年という時間的な猶予は得られましたが、いつまでもFITに頼ってはいられません。与えられた20年で太陽光発電が自立した産業に育つことができ、今後の100年を支えるエネルギー源になれるのか。太陽光発電はまさに、売るためのエネルギーから使うためのエネルギーに変わっていく必要があるでしょう。自家消費型で地産地消型のエネルギーになれるのか。重要な鍵を握っているのは、低コスト化を実現する技術開発だということは言うまでもありません。

編集顧問:川尻多加志

 

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