編集長の今月のコメント(2009年9月)

編集長 川尻多加志

青色LEDと青色LDの登場によって,例えばLEDを使用した屋外用大型フルカラーディスプレイは,もはや珍しいものではなくなりました。最近ではLED照明も普及し始めましたし,光ディスク分野ではハイビジョンクラスの高精細な動画像を記録・再生できるBlu-ray Discを実現して,これも家庭では当たり前のものになりつつあります。
しかしながら,緑色のLEDやLDとなると,波長を含めて現状ではまだ実用的に十分な特性を達成できていないというのが正直なところで,いわゆるグリーンギャップ問題が急務の課題となっています。このことは例えば,より高品質な液晶ディスプレイのバックライト用LEDや赤・緑・青色のLDを用いたプロジェクタを開発する際の障害となっています。この問題を解決しようと,いま緑色発光デバイスの研究・開発が内外で活発に進められています。
既に弊誌のニュース・フラッシュでもお伝えしているように,日亜化学工業は波長515nmのInGaN系CW緑色LDの開発に成功したと発表しました(応用物理学会・英文レター誌『APEX(Applied Physics Express)』より)。この緑色LDはGaN結晶の極性面であるC面を成長軸に作製したものです。515nmでのしきい値電流は53mAで,しきい電圧は5.2Vだそうです。510-513nmでの寿命は5,000時間で,出力は5mW(温度25℃時)を確認したということですが,一方では,まだしきい値が高く,高出力化に課題が残されているという見かたもあります。
 そのしばらく後になりますが,今度は住友電気工業が室温パルス発振する波長531nmの純緑色LDの開発に成功したと発表しました(同じくAPEXより)。純緑色領域での発振は世界で初めてとのことです。開発にあたっては,発光層に発生する内部電界の影響を弱めるため,結晶成長の方向を変えるとともに発光層の品質も高めたそうです。結晶の成長面や出力,しきい値電流・電圧など詳細は非公表のようですが,半極性面を使用しているもようです。同社によれば,発光層を制御することで緑色全波長領域をほぼカバーでき,これにより緑色LDにおける最適な波長が選択できるといいます。また電流を増加させても発振波長の変化が殆ど無いため,高電流下での高出力化にも対応するとしています。
 今月号の特集は,研究・開発が活発化する緑色発光デバイスのうちでも,特に注目の無極性面や非極性面を用いた発光デバイスを取り上げてみました。特集を企画していただいたのは京都大学・大学院工学研究科の川上養一教授です。特集では,各ご執筆者に最新の研究を発表していただきました。各研究のさらなる進展を期待しています。

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