編集長の今月のコメント(2009年10月)

20090114-kawajiri.JPG 編集長 川尻多加志

日本人はかつて「水と安全はタダ」と思っていました。ところが,今やミネラルウォーターをコンビニで買うことなど珍しくもなくなり,一方これまでには考えられなかった凶悪犯罪がずいぶん起きるようになったと感じる人も多いのではないでしょうか。
日本人の場合,お人好しというか,基本的に性善説に立っている人が多いようで,犯罪に対する警戒心が外国人に比べてかなり希薄です。海外旅行に行くと,それがよく分かると言いますね。実際,ちょっと油断していた隙に置き引き等の被害に遭ったという人も多いようです。
一方,外国人にとっては,財布やパスポートをタクシーに忘れても後から戻って来ることが信じられないようです。電車の中で居眠りをしていたり,女性が夜一人歩きするなど,日本では珍しいことではありませんが,彼らの目には何とも牧歌的と映っているかも知れません。
でも,最近では事情が変わって来ました。人々のモラルも下がって来たのか,騙す人間より騙される方が悪いという風潮も一部では見受けられるようですし,何の恨みもない無関係の人を平気で殺してしまうなど,信じられないような犯罪もかなり起きています。
インターネット絡みの犯罪も急増しています。パスワードやクレジットカードの暗証番号を盗まれたり,パソコンやサーバの中の情報を改竄されたり盗まれて悪用されるなどといった犯罪が実際に多発しています。つい最近では,入国審査に使われている指紋認証システムが,特殊なテープを人さし指に貼って指紋を変造する方法で簡単に破られてしまったという事件もありました。
情報セキュリティに対する関心とその重要性はますます高まっています。その期待に応えるには,現行の情報暗号技術だけでは不十分で,そこに光技術を絡めてより信頼性の高いセキュリティ・システムを確立して行こうという研究が注目を集めています。そこで今月号の特集は,光技術を用いた情報セキュリティの研究最前線を大阪大学・大学院情報科学研究科の谷田純教授に企画していただき,本分野の第一線で活躍中の方々に,その最新研究を紹介していただきました。
そう言えば,外国では当たり前の国家機密に関するスパイ防止法への関心が日本では低いように思えてなりません。改正不正競争防止法や改正外為法は今年成立しましたが,諸外国に比べると,その対策もまだまだ不十分のようです。
例えば米国,韓国,英国,ドイツでは不正取得が未遂でも加罰対象になりますし,米・韓・独に加え中国では,外国政府を利する目的の場合には罰則を重くもしています。国が安全保障上必要と判断すれば,企業の出願特許を非公開にもできるといいます(2009年4月22日付け読売新聞社説)。
日本では核兵器開発に絡むような先端技術装置の不正輸出に対する処罰も甘く,核物質関連の情報を漏洩しても懲役が1年以下では抑止力にも何にもならないと思うのですが。

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