編集長の今月のコメント(2009年12月)

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編集長 川尻 多加志

光科学分野で活躍するフェムト秒レーザと産業分野で用いられているナノ秒レーザの中間にあるピコ秒レーザが,欧州を中心に注目を集めています。そこで,今月号の特集では千葉大学の尾松孝茂教授に,ピコ秒レーザとその応用に関する最新動向を企画していただきました。
教授が総論でも述べられているように,ピコ秒レーザはフェムト秒レーザに比べ高出力化に向いていて,ナノ秒レーザと比べればデブリの少ないアブレーション加工ができるという特長を有しています。レーザ加工における省エネ化にも適していて,波長変換もフェムト秒レーザより容易,さらにフェムト秒レーザの代表,チタンサファイアレーザが産業応用として見た場合にフォトンコストが高いのに対し,ピコ秒レーザは半導体レーザで直接励起できるために安いということです。欧州に比べ遅れていると言われるこの分野の研究・開発が,我が国でも進展する事を期待しています。
次世代スーパーコンピューティング技術推進事業が,政府の行政刷新会議の作業グループの事業仕分けで「限りなく予算計上見送りに近い縮減」とされ,事実上の凍結になるもようです。報道によれば,作業グループからは「民間3社のうち2社が撤退し,見通しが不透明だ」とか「開発できなければ二流国になるなんて,あり得ない。見直しても国益には何のマイナスにもならない」とか「科学技術予算は,自民党のお陰で確保できたかもしれないが,結果的に損をした。予算は足りないぐらいが,アイデアが出ていい場合もある」などという意見が相次いだそうです(11月14日付・読売新聞6面)。
NECが撤退したのは,民間企業が開発費用の一部を負担するプロジェクト方式に変わったため,製造段階でさらに必要な負担(150億円とも言われている)が世界的不況による業績悪化で重いと判断,離脱を申し入れたもので,ベクトル型で共同開発を行なってきた日立も自動的に離脱したのが実情。意味がないとか,達成できないといった理由でやめたわけではありません。プロジェクトは残った富士通と設計を変更した上で,平成22年度の一部稼動を目指していました。
折りしもこの11月,「TOP500プロジェクト」が最新スパコン・ランキングを発表しました。それによれば中国が5位と19位,ロシアも12位と,新興国の台頭が目立ちます。日本の「地球シミュレータ」は31位,ついにトップ30から転落してしまいました。
資源のない我が国は科学技術で生きて行くしかありません。国家戦略の自覚もなく,前政権が決めた事だという感情的視点から科学技術関連プロジェクトも無駄とのスタンスで行くなら,世界における地位はドンドン低くなって行き,やがて日本はアジアの片隅の本当に小さな国になってしまうのではないでしょうか。
ノーベル賞を受賞した小柴昌俊氏は,ご自身の研究に対する新聞記者からの「研究は何の役に立つのですか」という質問に「何の役にも立ちません」と言ったそうです。作業グループがそこにいたら,研究はすぐ中止でしょう。

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