編集長の今月のコメント(2011年2月)

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編集長 川尻多加志

今月号の特集はシリコンフォトニクス。企画していただいたのはNTTマイクロシステムインテグレーション研究所・新世代ネットワーク研究センターの山田浩治・主任研究員です。総論の中で山田氏が述べられているように、電子回路の処理能力は信号遅延や発熱の問題によって限界に近づいています。一方、光回路では材料がⅢ-Ⅴ族化合物半導体やLNなど、多岐に渡る点やデバイスサイズが障害となって、集積化やさらなる低消費電力化が難しいという問題を抱えています。
そこで注目されているのが、シリコンフォトニクスです。スーパーコンピュータに求められる処理能力の格段の向上、通信トラフィック増大に伴うサーバや通信機器の低消費電力化、発熱の抑制などの問題を解決するため、筐体間、ボード間、チップ間、チップ内の光インターコネクションを革新するものとして、シリコンプラットフォーム上に光デバイスを構築するシリコンフォトニクスの研究・開発の進展が期待されています。
シリコンフォトニクスは、すでに基礎的な材料物性研究の段階から具体的なデバイス研究に移行しており、応用を想定した集積化に向かって、研究・開発が内外で活発に進められています。ただし、山田氏が指摘するように国際学会における発表件数を見ると、その構図はこれまでの先端技術の研究・開発に見られた日・米・欧の均衡ではなく、日本以外のアジア諸国の発表が増えたことで、日本を含めた東アジア、米国、欧州が均衡する、いわば亜・米・欧の構造になっているとのことです。
さらに、現状におけるシリコン電子デバイス製造の国内空洞化を考えた時、残念ながら日本単独ではシリコンフォトニクスの実用展開は困難になりつつあり、国際分業の検討も必要と指摘されています。ですが、だからこそ科学技術立国を目指す我が国における研究・開発体制は「2位じゃ駄目なんですか」ではなく、1位を目指して強力に推進していくことが望まれます。特集では世界を相手に戦う研究者の方々に、その最新研究をご紹介いただきました。
フランスの自動車大手ルノーの幹部3人が電気自動車に関する技術情報を社外に漏洩したと、産業スパイ罪や背任罪でパリ地検に告訴されました。米国のFBIに相当するフランス内務省の中央国内情報局が捜査に着手する見通しとのことです。欧米メディアは、漏洩先は中国企業ではないかと伝えています。
我が国でも2007年、自動車部品大手デンソーの中国人技術者が機密情報を含む大量の設計情報を中国に持ち出したと逮捕された事件がありました。証拠となるパソコンが当人によって破壊されたため確証が得られず、起訴は見送られたと記憶しています。
毎週土・日に日本企業のDRAM関連技術者が韓国企業でアルバイトをしていたという有名な話もありました。サムソン電子などでは多くの日本人技術者が引き抜かれて働いているそうです。理由は多々あるでしょう。技術者を大事にしない日本企業が悪いという意見もありますし、やってきた仕事を認めてもらえる喜びもあるでしょう。破格の待遇には誰でも心が動きます。でも、そこには何かが足りないような気がします。
人による技術流出への対応は簡単ではないと思いますが、少なくとも外国並みの法整備は必要です。経済産業省は、機密情報が公になるので被害企業が泣き寝入りする要因となっていた、裁判中の機密情報開示を行なわなくても審理できる特例を設けた不正競争防止法改正案を通常国会に提出する方針を決めたそうです(1月18日付け読売新聞1面)。

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