究極の自然エネルギー

 太陽から地球に届くエネルギーは17京4,000兆Wと言われています。このうち実際に人類が使えそうなものは1,000兆W、2008年に人類が使ったエネルギーは15兆Wという事ですから、現状では使えそうなエネルギーの67分の1、届いているエネルギーの1万1,600分の1しか使っていないという計算になります。
 
 この太陽エネルギーを電気に変換する太陽電池が注目され、今もメガソーラーの建設申請が相次いでいますが、残念ながら太陽電池は夜や雨の日には発電できないので、その稼働率は14~15%にとどまっています。
 また、発電していない時は火力発電など、他で電力をまかなわなくてはなりません。期待されているスマートグリッドや蓄電池、ネットワーク化の対策は正直、研究段階の域を出ていません。
 さらに、火力発電などの値段が8~10円/kWhなのに対し、太陽電池は日本でのフィード・イン・タリフ開始時で42円、この値段で電力会社が買わなくてはならず、その費用は結局は消費者が負う事になります。

 そこで、地上3万6,000kmの宇宙空間に太陽光発電所を建設して、地上に電力エネルギーを送る宇宙太陽光発電が注目を集めています。宇宙太陽光発電は、昼夜天候に関係なく安定した電力が確保でき、設備稼働率も90%以上なので、一説にはロケット費用を加えても8~10円/kWhという低コストの電力が可能とも言われています。
 地上へ送る方式には、マイクロ波を用いる方式とレーザーを用いる方式があって、マイクロ波方式は雲があっても減衰しないので、天候に関係なく送る事ができるのですが、受け取るアンテナが数kmと大きくなってしまいます。一方のレーザー方式は雲などで減衰はしてしまうのですが、アンテナは数百mと小さくて済むと言われています。それぞれに一長一短があるというわけです。

 宇宙太陽光発電はもともと1968年、P.E.Glaser博士によって概念が提示されました。米国では1977年から1980年にかけ、DOEとNASAによってConcept Definition Studyが行なわれましたが、この時は費用がかかりすぎるなどの理由で凍結されてしまいました。
 その後、1995年から1997年の間、NASAがSSP(Space Solar Power)の概念とその技術を検討したFresh Look Studyを発表。これに議会が興味を示し1998年、NASAはSSP Concept Definition Studyを実施しました。
 さらに1999年から2000年にかけては、宇宙太陽光発電に関する先行的研究および技術開発プログラムであるSSP Exploratory Research and Technology(SERT)を実施。軍関係でも2007年、米国宇宙安全保障局がフィージビリティ・スタディを実施して野心的なロードマップを示し、戦場におけるエネルギー供給は1$/kWhでも成立性があると述べています。

 一方の我が国では1991年から1993年まで、NEDOによって宇宙発電システムに関する調査研究が行なわれましたが、長期的すぎる実現時期や発電規模の最適化などの問題もあってか、プロジェクト化できずに終わっています。その後、1998年からはNASDAとJAXAが検討会を立ち上げ、コストモデルの作成や複数ワーキンググループの設置、ロードマップの作成や伝送実験などを行なって現在に至っています。

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 去る12月18日(水)、東京・御茶ノ水の化学会館において未踏科学技術協会主催の「宇宙太陽光発電実現加速」ワークショップが開かれました。

 ワークショップでは、三菱総合研究所の科学・安全政策研究本部、長山博幸主席研究員が「宇宙太陽光発電実現の歴史的努力と課題」を講演。上述の歴史とともに米国や中国の最新の動きを解説されました。
 特に、中国は2035年までに100MW級のSSPS(Space Solar Power Satellite)試作機で電力供給実験を行ない、2050年までに静止軌道上に商用SSPSを完成させると言っています。どこまで本当なのか判断しかねるものの、やると決めたらどんな事をしてでもやる国柄だという点には留意しなくてはならないようです。
 国際協力についても日本が優位に立つ技術開発をしないと、お金だけ持って行かれる懸念もあるので要注意という事です。

 長山氏は宇宙太陽光発電がこれまでに実現しなかった原因として、30年という長期の研究開発をどこが担当するのかという行政面での問題。送電以外のところの要素技術の研究開発が進んでいない技術面での問題。さらに経済面では、徐々に規模を拡大するビジネスモデルが取れないという点を指摘していましたが、6兆円プロジェクトであるリニア新幹線の進め方をお手本として、宇宙太陽光発電についてもアポロ計画のように目標を持って「行くぞ」という気持ちで集中投資をすれば出来る筈と指摘していました。
 
 もう一つの講演は、京都大学・生存圏研究所の篠原真毅教授による「太陽発電衛星(SPS)からの無線電力伝送技術と地上での実用化展開」です。
 篠原教授は、宇宙太陽光発電実現のためには、先ずは私たちの身のまわりで無線電力伝送の実績を上げて、一般の人の認知度を上げるのが重要と指摘していました。そうなれば自ずから宇宙太陽光発電への理解も深まるというわけです。
 例えば「Suica」に代表されるような磁場・電場利用非接触タイプやRF-IDのような電波利用距離タイプの一層の商品化を進める。さらに今年9月に発表された米国のベンチャー企業、Ossia社の空中送電技術「Cota」は、9mも離れた場所からiPhoneに1Wの電力を送信できると注目を集めています。電気自動車への無線電力伝送も認知度向上に大いに役立ちそうです。それから大電力長距離無線電力伝送の研究開発を推し進めるべきとの提言は、現実を踏まえたものとの印象を受けました。

 一方で、篠原教授は規格の重要性も訴えていました。世界におけるデファクトスタンダードとも言えるQi規格を作ったWireless Power Consortium(180社加盟)では中国が存在感を示しています(Qi(チー)は中国語)。これに加えて、MIT特許を元にサムソンやクアルコムが主導するAlliance for Wireless Power(60社加盟)、イスラエル企業が作った方式でIEEEがバックアップするPower Matters Alliance(95社加盟)の3大規格が、いま熾烈な競争を繰り広げています。しかしながら、そこに日本の存在感はありません。

 日本国内ではブロードバンドワイヤレスフォーラム(127社加盟の内ワイヤレス電力伝送システムWGは55社加盟)、ワイヤレス電力伝送実用化コンソーシアム(28社、31学識者、2研究機関加盟)、ワイヤレスパワーマネージメントコンソーシアム(24社加盟)、エネルギーハーべスティングコンソーシアム(60社加盟)の4団体が活動していますが、協力して総務省標準化を進め、世界に挑んで行くべきだとの提案には同感です。

 1980年代から宇宙太陽光発電と無線電力伝送の研究は日本が中心でした。日本の存在感を示すべき時は、今でしょ!
 これが今年最後のブログになります。来年もよろしくお願いいたしいます。良いお年を。

編集顧問:川尻多加志

 

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