交流の場(上)

シンポジウム会場 8月8日、東京・乃木坂の日本学術会議講堂において「第4回先端フォトニクスシンポジウム」が開催されました。主催は日本学術会議総合工学委員会ICO分科会で、共催は応用物理学会。

 このシンポジウムは、光科学技術の歴史と現状を俯瞰するとともに最先端の話題を紹介する講演会を開催して、この分野が生み出したインパクトや今後のイノベーションを国内にアピールし、さらに様々な分野における黎明期世代から現役若手研究者までを発表者とすることで、学会間の交流、世代間の交流、次代の若手育成、新産業やコミュニティーの創成の推進を目的に開催されたものです。
 約300名が参加した今回のシンポジウム、少し長くなりますので、2回に分けてレポートします。

 シンポジウムは先ず、主催者を代表して日本学術会議会員第三部部長、総合工学委員会ICO分科会委員長の荒川泰彦・東京大学教授が開会の挨拶を行ない、日本学術会議やICO分科会の活動などが紹介されました。
 日本学術会議は、1949年に設立された我が国の84万人の科学者を代表する機関。会員は210名、連携会員は2,000名に及びます。第1部の人文・社会科学、第2部の生命科学、第3部の理学・工学の三つの部に分かれていて、ICO分科会は30の分野別委員会の一つである総合工学委員会の下部に属します。
 ICOはInternational Commission for Opticsの略で、日本語名称は国際光学委員会。ICO分科会は、我が国における領域委員会として光科学技術分野での連携を推進しており、来年の国際光年においても積極的に活動を担うとのことです。ICOは世界の54の国と地域が参画しており、この8月末に荒川教授は会長に選出されました。2017年9月には総会が横浜で開催されます。
 荒川教授は、今回のシンポジウムを研究者相互の交流の場として積極的に活用してもらって意義あるものにしたいと述べるとともに、日本学術会議に親しみを持ってもらう機会になればと述べていました。

 続いて応用物理学会会長であり、日本学術会議連携会員の河田聡・大阪大学特別教授が登壇、応用物理学会で進められている変革への取り組みを紹介しました。半導体産業を含め、日本の産業界を取り巻く状況は変化しており、世界における日本の科学技術のプレゼンスの位置も変わりつつある中、応用物理学会は現在変革を推進中とのことです。
 新しい試みとしては、これまで分かれていた17大分類を、9月に北海道で開かれる秋季学術講演会から再編、フォトニクス分野では、従来の光3、量子エレクトロニクス4、光エレクトロニクス5の大分類を光・フォトニクスに統合します。
 分科会も刷新して、新たにフォトニクス分科会(仮称)を設立して、来年4月から活動をスタートさせる計画です。一方、これまでの日本光学会は、新たに一般社団法人として活動して行くとのこと。河田会長は、学問体系が大きく変革していく中、縦割りになることなく新しい分野を取り込んで行くのが応用物理学会の役割で、そのための改革を今後も進めて行くと述べていました。

 この後に行なわれた特別講演では、末松安晴・東京工業大学栄誉教授が「光ファイバ通信システム指向の半導体レーザ研究~本格的な光ファイバ通信の曙~」と題し、半導体レーザの研究・開発の歴史を俯瞰。
 将来の姿がよく見えない新しいシステムを実現させるには、そこに隠れているあるべき姿を覆うベールを引き剥がして浮かび上がらせるとともに、現実のものにするための中核技術を搾り出し実際に作って、その新しい技術を定着させる。末松栄誉教授は、これからの研究者にその継続を期待したいと述べました。特に、商用化を引き寄せるには、提案者自身が新しい技術を具現化すべきだとの言葉が印象的でした。

 2本目の特別講演は、藤嶋昭・東京理科大学学長による「光触媒の現状と今後の発展の方向」。光触媒の研究の歴史と殺菌や超親水応用などの事例の他、同大学・光触媒国際研究センターでの、植物工場で使用する溶液への応用、軽量のポリカーボネイトを自動車の窓に使った際の汚れ防止と曇り止め、鳥インフルエンザウィルス対策、CO2還元などの研究が紹介されました。
 光ファイバの中が水を主成分とする液体で満たされている光導管の研究も行なっていて、すでに20mのものまで完成しているそうです。太陽光を部屋の中まで導いたり、地下室に太陽電池を置いて発電・蓄電を行なうといった用途の他、透明度の低い海底に太陽光を照射して海草の育成を促進させるため、実際に若狭湾で実験を行なっているとのこと。この他、ボロンをドープしたダイヤモンド成膜の研究も紹介されました。

ポスター発表会場

 この後、隣接するラウンジとホワイエでは、70テーマに及ぶポスター発表と28社の賛助団体展示が行なわれました。それぞれが興味を持つテーマのポスター前では、発表者との間で活発な議論が交わされていました。(続く)
 
  
 

編集顧問:川尻多加志

 

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