交流の場(下)

 前回ブログで取り上げた「第4回先端フォトニクスシンポジウム」のレポートを続けます。

 荒川泰彦・東京大学教授と河田聡・大阪大学特別教授による挨拶、末松安晴・東京工業大学栄誉教授と藤嶋昭・東京理科大学学長による特別講演、そしてポスター発表の後はいよいよ午後の講演。美濃島薫・電気通信大学教授が「超高精度の光のものさし:光コム」、藤田克昌・大阪大学准教授が「超解像顕微鏡~光学系の限界を超える~」、それぞれの最新研究が紹介されました。

 続いては若手講演です。石井順久・東京大学助教による「軟X線アト秒パルス発生とその分光応用へ向けて」、東京工業大学の顧暁冬・学振特別研究員の「Bragg反射鏡導波路を用いた超高解像光ビーム掃引」、丸山美帆子・大阪大学特任助教の「光で創る結晶、光を創る結晶」、マーク・ホームズ・東京大学特任研究員の「室温動作GaN量子ドット単一光子源~量子情報処理集積回路の室温動作実現への道筋~」、NTTの野崎謙悟・研究員の「フォトニック結晶とナノ加工技術が可能にする極低パワー光制御素子」と、5本連続で研究成果の報告が行なわれました。

 休憩を挟んで最後の特別講演は、総合科学技術イノベーション会議の久間和生議員による「日本の科学技術イノベーション政策~先端フォトニクスへの期待~」でした。
 総合科学技術会議は、この5月から「イノベーション」という言葉が加わり、総合科学技術イノベーション会議(CSTI:システィ)という名称になりました。従来の科学技術振興に加え、イノベーションを起こすことが求められた結果の名称変更です。

 産業界からの研究発表が減っていることを危惧していると述べた久間議員、内閣府で先ず感じたのは「日本は産業競争力強化のための国家戦略が弱い」ということと「大学や国研を中心に新技術はあるが、製品に結びついていない」ことだったそうです。
 この問題を解決するためには、イノベーションによって強い産業をより強くするとともに、新しい産業を作るべきだとして、それには研究開発力とものづくりの強化に加え、欧米並みのビジネスモデルを作って連動させることが必要で、持続的イノベーションと破壊的イノベーションに加え、基礎基盤も疎かにしてはいけないと指摘。
 イノベーション人材の育成については、全てをこなせるスーパーマンを期待するのではなく、様々な技術分野や知財等において精通した、それぞれのプロフェッショナルを育成して行くべきだと述べていました。

 講演では、省庁縦割りの弊害を脱却するために作られた科学技術イノベーション予算戦略会議、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の仕組みとこれまでの取り組みも紹介されました。今後は分野横断技術としてICT、ナノテクノロジー、環境技術を強化するとともに、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けたイノベーション加速案件を年内にも決めるとのことでした。

 また、イノベーションを日本全体で起こす環境作りのためには、研究開発法人を中核としたイノベーションハブを強化していくべきだとも訴え、成功例としてドイツのフラウンフォーファー研究機構とマックスプランク研究所の取り組みが紹介されました。

 人材の流動化も重要で、二つの組織に所属して双方で業務を行なえるクロス・アポイントメント制度を積極的に推進するとともに、若手、女性、ベンチャー企業、中小企業が挑戦できる環境作りを進めて行くとのことです。

 講演の最後に、久間議員はフォトニクス分野への期待として、視野を広く出口を明確に考えながら技術を育てて行って欲しいと述べていました。また、「博士」とは、一つの分野を極めたら他分野に行っても勉強すれば通用する人を言うと述べ、学者になるだけが人生ではないので、産業界にどんどん入ってきて欲しいと、講演を締めくくりました。

 シンポジウム閉会の挨拶では、日本学術会議連携会員、総合工学委員会ICO分科会副委員長の五神真・東京大学教授(大学院理学系研究科長、理学部長)が、日本学術会議において若手が参加する場をつくるという試みは10年後、20年後に花開き、学術分野において重要なものになって行くだろうと述べ、またフォトニクス分野では新しい力を生み出すパイロット的研究がこれだけ多く出せるのだから、世の中を変えていくために、実例を示しながら進んで行こうと述べていました。

編集顧問:川尻多加志

 

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