時代はカーフォトニクスへ

1412827900748 10月9日(木)、東京は目白の日本女子大学・新泉山館において第133回微小光学研究会が開催されました。主催は応用物理学会・日本光学会・微小光学研究グループ、今回のテーマは「自動車を進化させる微小光学」でした。

 我が国の電子産業が韓国、台湾に加えて、中国などの追い上げによって、かつてのような競争力を失ったと言われる中、自動車産業はそれに代わって日本経済を支える屋台骨になっているとの感があります。使われる部品なども多岐に渡り、それだけに産業としての裾野は非常に広く、雇用という面でも大きく貢献しています。
 その自動車は、衝突防止センサなどの運転支援システムの搭載が当たり前になりつつあり、最終的には自動運転を目指し、2020年は自動運転元年になるとも言われています。そんな中で、光技術がどのように用いられていくのか。研究会では自動車用光部品や加工技術、運転アシスト技術など、進化する自動車関連光技術に関する最新の話題が紹介されました。

 当日行なわれた講演は全部で9本でしたが、ここでは豊田中央研究所の各務学氏による基調講演「転換期にある自動車技術と光の貢献」から、いくつかを紹介したいと思います。講演では、先進運転支援システム(ADAS)をさらに高度化する光技術としてセンサ、通信、ディスプレイ、照明等を概説、高速光通信用低コスト部品の研究や国際標準の現状が紹介されました。

 先ずはレーザレーダですが、CMOS基板上に超高感度の単一光子検出デバイス(SPAD:Single Photon Avalanche Diod)アレイと信号処理回路を一括形成したイメージセンサを用いて、最悪の条件下(白昼下、黒色ターゲット)でも80m前方の人間を検出することが可能になったとの事です。
 夜間の検出性能を高めるための近赤外線カメラも実用化されていて、100m以上前方の人間をディスプレイ上で検出できるそうです。認識性能の向上の研究開発においては、マルチバンドカメラを用いた反射分光スペクトルによって、人間の肌やアスファルト、草木、自動車等の識別が可能になりました。課題は光学系の小型化と低コスト化との事。

 照明では、ハイビームによる可視範囲の確保を行ないながら、対向車や歩行者の防眩を行なう配光可変ADB(Adaptive Driving Beam)の搭載が進んでいて、アウディA8に搭載されたMatrix LED Head Lightと呼ばれる25個のLEDアレイを用いたADBシステムが注目されています。

 車載Ethernetでは、UTP(Un-shield Twist Pair)とSTP(shielded Twist Pair)の電線を用いた2方式とPOF(Plastic Optical Fiber)の3方式の適用が検討されていて、それぞれの標準化が進んでいるとの事。

 光トランシーバの低コスト化においては配索、コネクタスペース、軽量化を実現できる一心双方向(BIDI)通信を実現するための研究開発が進んでいます。自己形成光導波路技術を用いた2波長利用BIDIモジュールでは、光物理層としてコア直径1mmのPOFと波長500/660nmのLEDを用いて、250Mbps以上の高速LEDと8PAM以上の多値化を行なって1Gbps伝送が可能との事。また、コア直径200μmのPCS(Plastic Clad Silica)と波長780/850nmのVCSELを用いた自己形成技術によるBIDIモジュールでは、16PAM以上の多値化で10Gbps伝送が可能になったそうです。
 コア径とNAが大きいために接続トレランスが大きく、部品コスト、実装コストが小さくなるというメリットを持つマルチモード光ファイバ(MMF)は、一方で伝送モード分布(MPD)を精密に管理する必要があります。自動車では複数の電線を束にしたハーネスが組配線中に沿って配索されるので、ネットワークにおいて様々な問題が生じます。信頼性の高い通信品質を保つためのMPD定量化法の標準化が求められており、その現状も紹介されました。

 講演はその後、名古屋大学・山里敬也氏による「高速イメージセンサーを用いたITS可視光通信」、明星大学・齊藤剛氏による「ガソリンエンジンにおけるレーザー着火」、前田工業・三瓶和久氏による「自動車におけるレーザー加工」、産業技術総合研究所・新納弘之氏による「CFRP材料のレーザーによる加工」、パイオニア・靭矢修己氏による「車載レーザーヘッドアップディスプレイ」、デンソー・高須賀直一氏による「自動隊列走行におけるLIDARを用いた白線検知技術」、慶応義塾大学・青木義満氏による「運転支援システムのための歩行者検知技術」、東京工業大学・実吉敬二氏による「ステレオカメラによる障害物検出」と続き、それぞれのホットな研究開発の現状が報告されました。

 来年は、1815年にフレネルが光の波動説を唱えてからちょうど200年にあたり、国際光年でもあります。この国際光年の協賛事業である第20回のMICROOPTICS CONFERENCE(MOC’15)も、来年の10月25日(日)から28日(水)までの四日間、福岡国際会議場で開催されます。
 
 開会の挨拶を行なった微小光学研究グループ実行委員長の早稲田大学・中島啓幾氏と閉会挨拶を行なった同研究グループ代表の東京工業大学・伊賀健一氏も述べられていたように、今回のテーマ、自動車を進化させる微小光学でしたが、同時に微小光学を進化させる自動車という捉え方もできるくらい、自動車産業の持つインパクトは強いと言えるでしょう。まさに、時代はカーエレクトロニクスからカーフォトニクスへと進んでいます。

編集顧問:川尻多加志

 

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